Story 005
千葉県市川市 ササキ邸
小さくても広い、中庭と螺旋階段のある家の物語

憧れの“テラスで焼き肉”を実現させたササキさんのこだわり


2つの中庭と螺旋階段、最上階に空に浮かぶ船のキャビンのようなダイニングキッチンと焼き肉ができる甲板のようなテラス。
立体的で広々とした空間のササキ邸は、13.5坪という小さな土地に建てられました。

 

「テラスで焼き肉できる家が欲しかったんだよね」と開口一番。

施主であるササキトモヒロさんはにこにこしながら「家の中でやると、そこらじゅう油が飛び散ってつるつるになっちゃうでしょ。だから、外のテラスで焼き肉できるようにって、ガスロースターをつなぐ屋外用のガス金具を大阪の工場から自分で取り寄せてつけてもらったの。落成時には、建築家の岡村泰之さんとも焼き肉しましたよ(笑)」と胸を張ります。


ササキ邸は13.5坪の狭小地に建てられた3階建て住宅。1階から3階を結び、建物全体に光と風を通すのは2つの中庭と螺旋階段。1階には主寝室と浴室などの水回り。中庭に面した浴室では、窓を開けての入浴が可能です。露天風呂気分が楽しめると家族からも好評だとか。2階はワンフロアをカーテンで仕切って、2人の子どものプライベートスペースに。ぐるりと空を望む光あふれる3階には、ダイニングキッチンとそれを囲むように細長いテラスがあります。

このテラスこそ、ササキさんこだわりの「焼き肉」のステージ。「設置したい焼き肉用のガスロースターを説明するために、岡村さんをいきつけの焼き肉屋に連れてって打ち合わせしました(笑)」。そのかいあって、人を招くたびに絶賛の嵐となる“テラスで焼き肉”のおもてなしが実現できたといいます。

行きつけの焼き肉屋さんと同じガスロースターを直接工場に注文!本格的・お家焼肉を実現。

ガスロースターをつなぐ屋外用のガス金具。「家の中からコードを引っ張ってくると、引き戸が締め切らずに少し開いちゃうのはカッコ悪いでしょ。」と考え抜いての取り付け。焼肉にかける熱量がスバラシイ。

マンション暮らしから一転、小さくて広い家づくりのスタート



ササキさんが建築家・岡村泰之さんと出会い、この家を一緒に作ることになったのは2013年のこと。

秋田で一人暮らしだったお母様が上京したことから始まります。当時、ササキ一家4人は分譲マンションに住んでいたため、お母様には以前ササキさんが住んでいた中古の一戸建てをリフォームして住んでもらおうと考えました。ところが、方向を一転させたのは奥様の一言。「いっそ新築に建て替えたら?」。


そこから、ササキさんのハウスメーカー回りが始まりました。まずは安価で家を建てられるとうたっているハウスメーカーをいくつか回ったものの、提案される図面は狭すぎて「正直、こりゃ住めない」というものばかり。そこで、「“第一種住居地域”だとか“北側斜線”だとかいろいろ調べて、いたずら書きみたいな自作の図面作ってハウスメーカーに持っていくんですよ。こんなん建つんじゃないの?って見せては、みんなを困らせたってわけ(笑)」。


そんな時に目に留まったのは、自宅の本棚にあった狭小住宅のためのリフォーム本。そこで紹介されていた建築家紹介サービス「ザ・ハウス」にアポを取り、岡村設計事務所の岡村さんとの面談が決まりました。

自宅の本棚に十数年眠り続けていたという一冊の本。建築家・岡村さんと出逢うきっかけになりました。

ササキさんご自身が描いた家の設計図。「当時こんな素人の描いた絵を持って、色んな建築家さんにわがままをぶつけたんですね。今見るとひどいな、これ(笑)」とササキさんは楽しそうに当時を振り返ります。

設計図以前に施主の心を射止めた、建築家からの提案



「岡村さんのところにも、自作の図面持って行って困らせたわけですよ。スルーされましたけど(笑)。奥さんがくつろげる部屋と子ども部屋と僕の仕事部屋が欲しくて、あとお袋も一緒に住むっていったら、いや、ササキさん、あなたどこでも仕事できるでしょ、って。だから仕事部屋は必要ないって岡村さんいうんですよ。お母さんはマンションに住んでもらえばいいです。あなたがた家族4人で住みなさい。敷地狭いけど中庭2つ作りましょう、って」

びっくり仰天したというササキさん。「ものすごく興奮した。何言ってんだこの人、って」。その一瞬で、ササキさんは岡村さんという建築家にすっかり引きつけられてしまいました。


「岡村さんは愛想がいいわけでもないし、おしゃべりでもない(笑)。それなのに突然、お母さんはマンションです、最初からバリアフリーになってます、ってごくごく当たり前のことを俯瞰で言ってくれる。うちの家族構成や暮らし方を見てあっさり問題解決してくれて、設計云々以前に勝負あり!でしたねぇ」と感慨深げに頷きます。


岡村さんとの打ち合わせは「当たり前だけど、最初にヒアリング、次に模型を作ってもらって、基本構造が決まったら、どんどんディテールを詰める。打ち合わせのたびにお酒飲んでた気がしますねぇ。よかったのは、岡村さんが設計した家のオープンハウスに何軒も行ったこと。そこで家づくりのヒントをたくさんもらいました」。

3Fのリビングには、なんとテラスが2つも!

折れ戸にすることによって、無事に消防法を回避することができた小さいテラス

とことん調べることで守られた、3階から空へ広がる解放感



家づくりが進む中、消防法の問題で、3階の窓の1つをはめ殺しサッシにしなくてはならないと知ったササキさんは慌てました。「その窓からテラスに出られないっていうのは大問題! 基本的に僕はいつも3階にいる。キッチンから窓の方向を見渡すと、この家って船みたいに見えない? 手すりが家の中から外へぐるっとつながっていて、船のデッキみたいでしょ。視界も抜けてて、ここは家じゅうで一番気持ちいい場所。今みたいにフルオープンにできるかできないかは大違いなんです」

そこでササキさんは、サッシ会社のホームページやコラムなどから情報を集めまくりました。そこで突き止めたのは、折れ戸なら消防法的に問題ないということ。さっそく岡村さんに伝えて、無事に開閉できるサッシをつけることができたのだとか。


家づくりにはとことん関わったというササキさん。「美容院に行って、おまかせですって言ってうまくいく場合もあれば、全部細かく指示してうまくいく場合もあるでしょ。家づくりも同じじゃない? 僕は調べる派。施主支給もやりましたよ。換気扇、ガスコンロ、ガスオーブン」。焼き肉の設備だけでなく、床暖房、秋田杉のフローリング、キッチンにはサブシンクと、家中にササキさんのこだわりが詰まっています。

家の中は螺旋階段で繋がっています。天井から降り注ぐ採光でとても明るい空間です。

小さな中庭に面したバスルームは、狭小住宅とは思えない開放感。

空間の美しさと面白さを満喫できる「FU-HOUSE24」



家の名前は「FU-HOUSE24」に決定。“FU(ふー)”はため息の“ふう”で、副題は「(L)ight」


ササキさんがカメラマンということから、ライティングの頭文字Lを取りました。もう1つの理由は、中庭と螺旋階段によるL字型の光から。
家の中にL字型の光が隠されている、という意味を込めてLをカッコに閉じ込めたのだといいます。


デザインに凝らなくても、工夫次第でカッコよく暮らせるだろうって思っていたというササキさん。でも、次第に工夫だけじゃどうにもならないところが家づくりにはあるんだと気づいたのだとか。

「これだけの明るさと解放感は、誰にでも作れるもんじゃない。コンセントがいっぱいついてりゃ便利でいい家って話じゃなくて、建築に大切なのは空間の美しさや面白さ。僕は岡村さんに建築家ならではの空間を作ってもらいました」。


家づくりとは、家族で住む箱をつくるだけではなく、これからの人生で必要なものを見極める作業でもあるんだとササキさんは続けます。「岡村さんのスゴさは、一瞬でうちの住まい方の交通整理をしてくれたってところ。結局僕はどこでも仕事できるってほんとで、たいてい3階で仕事してますね。奥さんは、せめてソファを置くぐらいのスペースが欲しかったとか言ってますが、僕はもう何にも言うことないです。15坪もないこのスペースに、ここまでの家ができて…もう言うことないです」。窓一面に広がる空と同じくらい晴れやかに答えてくれました。

ササキさん

Q&A -ササキさんへ5つの質問-

Q1:お気に入りの場所はどこですか?

螺旋階段を上がっている途中に見える中庭部分。グレーチングを渡して観葉植物ボックスみたいになってるんだけど、モンステラとか日当たりがそれほどいらない植物がよく育っていていい感じだなって思います。もう一つの中庭に面しているお風呂もほんと気持ちいいですよ。あと、キッチンに立ってると、ダイニングテーブルに座った家族の顔がみんなこっち向いてるの。その景色がね、なんかいいなぁって思います。

 

Q2:こだわりの設備は?

床暖房のよさは一度味わうとやめられない(笑)。以前住んでいたマンションで体験してしまったので、この家にもつけてもらいました。あとは、厨房に2人立ってシンク1つはしんどい。僕も料理するんで、ダブルシンクにこだわりました。パナソニックのシステムキッチンにしたから、カウンタートップを同じ素材にしたくて、工場に問い合わせて作ってもらいました。すごく便利です!って言いたいけど、実際は活用しきれてないかもしれない。でももちろん大満足ですよ。

Q3:工務店さんについて教えてください。

山菱工務店にお世話になりました。そのころ時間があったから、毎日現場で棟梁とお茶飲んでました。素人だから気づくようなところもあって、いくつかピンチを救いました(笑)。岡村さんがいつも言っていたことは「ブラックボックスをなくす」。客に言う値段と実際の仕入れ値が違うってよくあることだけど、すべて教えてもらっていました。だから、施主支給もやりやすかった。家づくりは一人じゃできない。建築家、工務店、ガス屋さんや電気屋さん、そしてやっぱり施主も大事。この家はあの時あのチームだからできた家。同じスタッフで今作っても同じ家にはならないと思いますね。

 

Q4:特に気を使ったことは?

奥さんは仕事が忙しくて、家づくりを楽しむ時間がなかった。お風呂のタイルの色合いとか細かい仕様も、彼女になるべくお伺いをたてましたね。岡村さんとの打ち合わせでは、彼女が施主で僕がコーディネーターみたいになっちゃって。3階は窓が多い分、夏は暑くて冬は寒い。仕切りがないから音がダダ洩れだとか。住んでみればいろいろ文句はあるようだけど、とりあえずオッケーもらってます(笑)。それよりも何よりも、この家にとって大事な明るさや空間的な面白さは、ちゃんとクリアできてるって思ってます。

Q5:ササキさんにとって家づくりとは?(これから家を建てる人へのアドバイスをお願いします)

うちは仕切りがない家にしたから、音も何もかも筒抜け。これがいいっていう人も嫌だっていう人もいると思うけど、ハウスメーカーだとそんな選択肢もなくどんどん進んでいっちゃう。建築家となら自分の好きなものを集めた家が作れます。あと、建築家に家づくりの相談をするってことは、自分の人生に必要なものを考えるためのカウンセリングみたいなもの。うちは岡村さんのアドバイスでいろんなことの方向性が定まった。すごい意味ありますよ。

取材後記

道路側には窓がなく、黒い箱のような印象。ところが、玄関を入って中庭と螺旋階段から降りそそぐ光の明るさに驚かされました。1階の静けさ、2階の居心地の良さ、3階の解放感。それぞれの雰囲気の違いも面白く、さらにササキさんの軽快なトークにも圧倒された取材でした。「焼き肉焼き肉って言ったけどさ、一番おいしいのは焼き蛤なんだよねぇ」。ササキさんの魅惑のささやきがまだ耳に残っています。(ライター:永井)

 

インタビューの間中「焼肉」というワードが飛び交った、ササキさんのユニークなキャラクターに惚れ込みました(笑)

住まい手の人柄と個性で、住まいというのはこれほどまで表情を変えられるんだなぁととても印象深く心に残る、そんなお住まいでした。

ササキさま、岡村泰之建築設計さま、ありがとうございました。(編集:森本)