特殊塗装・左官ぬり貫

バンメタルロームシアター京都 photo by Shigeo Ogawa

創造の抽斗こそ我が財産

マンダリンオリエンタルホテルや泉岳寺書院・JPタワーKITTEなど数々の難しい現場に参画してきた「ぬり貫」。

技術的抽斗の多さと提案力を誇りにしており、設計者や施主のイメージをなかなか具現化できない現場から、塗装・左官を問わず「何とかならないか」と相談される、「ぬり」の駆け込み寺とも言える存在です。

後発だからこそ創意工夫が必要

谷口信隆・裕輔兄弟が担う現在のぬり貫ですが、そのスタートは今から33年前、二人の父親である谷口貫(とおる)氏によって幕が開けられました。

当初ぬり貫では、ペンキを中心とした塗装業を営んでいましたが、当時の塗装業にはシンナーが欠かせないこともあって身体を壊す同業者が後を絶ちませんでした。

「このままでは自分の身体が持たない」と感じた貫氏は、今までの塗りの技術を活かすことができるだろうと、土の世界・左官業へも進出していきます。

 左官は古くからの伝統技術であり古参職人が数多くいますから、新参者であるぬり貫が顧客を獲得するためには創意工夫が不可欠でした。

そこで貫氏が取り組んだのが、設計者の感性や施主のイメージをオリジナルに具現化する特殊左官の世界だったのです。

「窓外の森の緑が映えるような土壁にしてほしい」「海が好きな施主だから、海を連想させるようにしたい」「周囲の桜のイメージを室内にもつなげるような壁にしてほしい」・・・等々、設計者や施主の抽象的なイメージや要望を、様々な土や骨材を、時には金属などを配合しながら、それこそ塗装と左官の壁を越えて「ぬり」の試行錯誤を繰り返して表現していくことに、貫氏は全精力を傾けることにしたのです。

 幼い頃からこうした父親の姿を間近で見ていた信隆氏と祐輔氏は、創造の世界への憧れにも似た想いで「親父の仕事は格好いい」と感じていましたから、ごく自然に家業を継いでいくことになりました。

谷口 信隆氏

谷口 祐輔氏

物語を紡ぐ

設計者から表現を託される信隆氏と祐輔氏は「空間建築のストーリー」に寄り添います。

「設計者が創造する空間には、その場を紡ぐ物語が必ずあります。その地の歴史や施主の想い、それらを包含するように組み立てられた空間イメージを「ぬり」で具現化するのが我々の仕事。そのイメージを見事に表現できた時には建築家や施主に感動してもらえますし、自分達も最高の気分を味わえます」

「お客様から『ぬり貫は値段が張ると思ったけれど、頼んで良かった。それ以上のものを創ってくれた』と言ってもらえた時が一番嬉しいですね」・・・二人はそう語ります。

そうした喜びを味わう裏には「設計者から次々と要望される新しいイメージを、自分たちの知恵と技術で具現化させなければならないというプレッシャーの連続がある」とも言います。

そのプレッシャーを跳ね除けるには、兎にも角にもサンプルやモックアップを入念に作り上げていくのが、ぬり貫の手法。

二人は「サンプル製作は失敗の連続。何度も何度も徹底的に失敗を重ねていくことで、設計者と自分たちがイメージを共有できる。サンプル製作の中で、自分たちも現場の流れのイメージを膨らませ、最終的に期待に沿う仕事ができるのです」と言います。

素晴らしい物語を紡ぐ裏側では、ひらすら地道な試行錯誤が、日々繰り返されているのです。

版築 銀座北大路

版築 沼津倶楽部

photo by Shigeo Ogawa

創造の抽斗こそ、ぬり貫の財産

先代の時代から30年以上に渡り、数多くの物語を紡ぐための試行錯誤を重ね、仕事を一つ一つ真摯に丁寧に仕上げてきた「ぬり貫」には、素材や技術・発想の膨大な抽斗があります。

この膨大な抽斗こそが「ぬり貫」の財産であり、これらの抽斗を、時に組み合わせ、新たな要素を付け加えたりしながら、また新しい物語が紡ぎ出されていくのです。

 

まさに「創造の抽斗こそ、ぬり貫の財産(信隆氏)」なのです。

素材の開発・技術の切磋積み重ねて作品を生み出してきた二入は、声を揃えて「これからもいろいろな業種の方々と積極的にコラボレートしていきたい。それが創造の抽斗をさらに増やしてくれると思いますから」と言います。

異質な者同士の出会いが新たな創造へとつながっていく可能性があることを、今までの経験から二人が知っているからでしょう。

同時に二人は「後継者を育成していきたい」と強く願っています。

二人が自分たちの父親の仕事を見て「格好いい」と感じたことを、今度は自分たちの仕事を見て「ぜひやってみたい!」と思ってくれる後継者が現れるような仕事をしていきたいという想いと同時に、新たな後継者との出会いによって「ぬり貫」の創造領域がさらに広がるはずだと感じているからでしょう。

初代・二代目と続いてきた「ぬり貫」が、三世代目を迎えたときにどんな展開をしていくのか、これから大いに期待したいと思います。

タイル入りカキオトシ 軽井沢

信長壁 新宿番屋

取材後記

ぬり貫のオフィスには、試作品がゴロゴロころがっています。

創造することに全力を注ぐという谷口兄弟の心意気が大量の試作品に反映されているのでしょう。(取材:上野)

 

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