板金職人新井 勇司さん

一級建築士を持つ板金職人

建築板金職人の家に生まれ、父親譲りの器用さとモノ作りへの情熱を持ち合わせていた新井さんは、小学校の卒業文集には既に「20年後にみんなの家の屋根を作ってやるぞー!」と書いていたというから驚きです。

 

一方で、生来の向上心から「どうせやるなら、建築家と同じ目線で会話できる職人になりたい」と考えて大学の建築科に進学し、卒業後2年目には一級建築士資格を取得したのです。

 

以後、建築板金修行時代を経て30年以上に渡って実績を積み重ね、数多くの建築家から極めて高い評価を受けるまでになったのは、若い頃から「向上心・探究心」を欠かすことがなかったからだと言えます。

5種類の板をグラデーション張り

お寺の本堂

5種類の板をグラデーション張り

お寺の本堂

特殊貼り

特殊貼り

本質を極めるからこそ、自由な発想ができる

新井さんが修行時代から心がけていることは「物事の本質を見極める」ことです。

 

職人の世界には、昔から伝わる技術の伝承が数多あります。

そうした技術の一つ一つを単に踏襲するのではなく、「なぜそういう技術が伝承されているのか」を自分が納得できるまで調べ尽くして、建築家や施主を説得できる理論をしっかりと構築しておくのが新井さんの流儀です。

徹底的に調べ尽くして新しいアイデアを生む

例えば、板金技術を駆使して屋根材を製作する場合には、屋根材同士のつなぎ合わせを完全密着させず、3mmほどの微妙な隙間を設けます。 密着させると、つなぎ目が毛細管現象によって雨水などを吸い上げて予期せぬ方向に漏れ出すことがあり、微妙な隙間が毛細管現象を防ぐ役割を果たしているのですが、こうした理論を頭に入れておくことはもちろん「では3mmが2mmや1mmではダメなのか?」「どこまでなら大丈夫なのだろうか?」と徹底的に調べ尽くすのです。

 

遮音効果を確認するために、実験設備を設置した小屋を作ってしまったことさえあると言いますから、その探究心は相当なものだと言えるでしょう。

 

何事も徹底的に突き詰めて本質を追及していくことで「やれる事とやれない事の見極めがつくようになり、結果として大胆で自由な発想が可能になる(新井氏)」のです。

 

建築家の多くが「新井さんの提案力とそれを実現させる技術力には驚かされる」と称賛するのも、大胆な提案の背景に、一つ一つの板金技術に対する確かな理論的裏付けがあるからでしょう。

大和田の家1 設計 リオタデザイン関本竜太

大和田の家2 設計 リオタデザイン関本竜太

今あるものが完成形じゃない

新井さんは「今あるものが完成形じゃない」と言います。

 

自由な発想で新しい提案をしていくことによって板金技術は日々進化していきますし、「職人のあり方だってそうあるべきだ」と新井さんは考えています。

 

「昔気質の職人スタイルを否定するつもりはないが、時代が変われば職人のあり方も変わるのではないでしょうか。残すべきは残し、採り入れるものは大胆に採り入れていくべきだと思うし、インターネットやIT機器についても積極的に勉強していこうと思っています。 どんなに長い歴史のある仕事や技術でも、今あるものが完成形じゃない、常にそう思って考えるクセをつけないと進歩はないですからね」

モルタルとの相性を考えた板金

立ハゼ張り

コロコロ研究所って何?

「コロコロ研究所・代表理事」・・・一風変わった組織の代表者が新井さんのもう一つの顔です。

 

建築板金というものを世の中に知らしめることも大事と考えて、仲間を募ってコロコロからくり装置王選手権などのテレビ番組に積極的に出演し、装置王選手権では2度のチャンピオンにも輝いたのですが、「こうした活動を継続的に続けていこう」と、職人仲間と共に作ったNPO法人が「コロコロ研究所」。

 

コロコロ研究所は、学校休みに各地で開催されるイベントへの出演や学校教材の製作などを行いながら、板金技術の素晴らしさ・面白さを伝道する活動を行っています。

 

イベントなどで披露する装置や教材の設計・製作は仕事合間の休日や夜中に行わねばならず、疲れた身体にムチ打っての作業はたいへんですが「面白い装置や教材を見せてあげると、子供だけでなく大人も喜んでくれるし、装置や教材を創る過程やお客さんの反応が仕事のヒントになることも多いですよ」と言います。

 

コロコロ研究所は、新しい時代の職人のあり方を、新井さん流に提案する場所でもあるのです。

コロコロ研究所主催イベント

イベントで教える新井さん

住宅を「買うもの」ではなく「創るもの」にしなければいけない

新井さんは、建築板金の話をしている時も、コロコロ研究所の活動を語る時も、常に笑顔を絶やさず、実に楽しそうに話します。

 

「やっぱり創るって楽しいですよ」という言葉が全てを物語ります。

 

創る楽しさを人一倍知るだけに、昨今は、住宅が「創るもの」ではなく「買うもの」になっている現状が残念でならないと言います。

 

それだけに、コロコロ研究所による活動などで「創る楽しさ」を伝えていくと同時に、本業である建築板金の魅力をもっともっと伝えていかなければならないとも考えています。

 

今、二人の息子さんと一緒に仕事をしている新井さんですが、「息子たちを含む次世代の連中には、もっともっと工夫して建築板金を発展させることで、既製品に負けないようにしてもらいたいですね」と語ります。

 

「建築板金の仕事を始めて30年余り、『少しは上手になってきたかな』とも思いますが、まだまだいろんな事にチャレンジしていきたいですし、そうしなければいけなと思います。 とにかくやるべき事・やりたい事があり過ぎて時間がいくらあっても足りないですよ(笑)」

個人邸

店舗の屋根

取材後記

笑顔が素敵な新井さんは、コロコロ研究所活動で子供たちにも人気の存在だと言います。

その笑顔を、取材に伺った私にも惜しみなく届けてくださいました。

ジャズの流れる事務所で、建築板金からコロコロ研究所・将来の構想に至るまで熱く語り続ける新井さんは、本当に素敵なクラフトマンでした。(取材:上野)

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