左官職人挾土 秀平さん

土のマエストロ

ザ・ペニンシュラやアマン東京・洞爺湖G7サミット会議場・羽田空港ファーストクラスラウンジなど国内外で話題の建築に関わってきた、日本を代表する左官職人・挾土秀平さんは言葉とストーリーを大切にする人です。

「松ぼっくりの野菜蔵」「氷雪の壁」「時の復元」「縄文の壁」「夜空の紺」「歓待の西洋室」・・・

挾土さんは、自分が手がける仕事にこうした名前をつけてきました。

仕事に向き合う挾土さんは対象を徹底的に観察し、考えに考え抜いた末に、対象に最もふさわしい「言葉」を紡ぎ出し「ストーリー」を描きます。

そのストーリーを土壁に具現化できるような素材を厳しく選別し、卓越した技能が加わることによって素晴らしい仕事が生まれるのです。

挾土さんは「建物はその土地の気候風土と密接に結びつくものだから、地霊(ゲニウス・ロキ)を感じ取ることが重要だ」と語ります。

地霊(ゲニウス・ロキ)を感じ取り、紡ぎだした言葉とストーリーを土壁に塗りこんでいく・・・挾土さんの仕事が芸術的と言われる理由がここにあります。

 

ペニンシュラ東京

稲穂と車田の壁

仕事とは出会いである

あまりにも有名になった挾土さんに対して「芸術的な仕事でないとお願いできないのではないか」と尻込みする人が少なくないのですが、「自分たちの仕事を望んでくれるなら、どこへでも行く」というのが挾土さんのスタイル。

「芸術家は好きなことだけしていてもいいのかも知れないが、俺は、望まれればどんな仕事でもするし、さまざまな出会いを敏感に感じることで、新しいチャンスにも巡りあえる」

これが挾土さんの流儀なのです。

アマン東京

羽田空港 国際線ファーストクラスラウンジ

 

体験から滲み出てこそ、活きた言葉

言葉を大切にする挾土さんは「書くことにこだわる人」でもあります。

「仕事の合間に書いてきた」という、びっしりと書きこまれた何十冊ものノートを見るだけで「この人に任せておけば間違いない」と確信できる、仕事師の気迫が伝わってきます。

意外なことに挾土さんは「俺は、本はあまり読まない」と言います。

「俺が大切にしているのは『体験に裏打ちされた言葉』だけだ。その人が有名か無名かなんて関係なく、聞きかじりの知識ではなく体験から滲み出た『生きた言葉』こそが、ものすごく参考になるんだ」と。

自らも、現場で感じた事や考えた事を、ひたすらノートに書き綴っています。

「腕を磨くだけじゃなく、壁を塗って身体で感じたことを言葉にして定着させることで、材料の混ぜ方や鏝の使い方などがさらに想像力豊かなものになる。もっと良くするためにはどうすればいいのかを、書くことで徹底的に考えることができる。成長するためには考えることが絶対に必要で、そのためには書くことが一番早い」・・・そう話す挾土さんの表情は哲学的ですらあります。

京都個人邸

高山市遊僕館(縄文土器の壁)

日本の美意識を建築に反映させたい

高級ホテルやレストラン・テレビ番組のセッティング等々・・・数多くの華やかな舞台で仕事をしている挾土さんですが「左官の王道とは、住宅の壁や座敷・茶室・蔵などの壁を塗ることだと自分は思う。しかし、日本の美意識を活かそうという住宅建築が激減しているからこそ、いろんな仕事をやらざるを得ないのだ」と言います。

同時に「伝統は単なる伝承であってはいけない。伝統を守るためにこそ革新的な仕事をしなければいけない」とも語ります。

わび、さび、ゆらぎ、うつろい・・・長い年月をかけて育まれてきた日本人の美意識と、寒暑乾湿の差が激しい日本の気候に合った建築手法として生まれた「土壁」ですが、今や「コストと手間がかかる」という理由から、大手メーカーが工場で均一生産した工業製品に取って替わられており、それを誰もが許してしまっています。

「日本は優れた職人の国であったはずなのに『もう建築の現場に職人はいらないよ』と言われているような気分になる」・・・挾土さんは嘆きます。

「工業製品の直線や規格品を使ってのシンプルモダンなら誰にでもできる。浮世絵や桂離宮・伊勢神宮などを見れば分かるように、複雑で多様な線や技能を取り入れながらも全体として極めてシンプルにすることができる。そんな日本の美意識は建築の世界から失われてしまった」とも・・・

工業製品だらけの建築の是非は各人の判断に委ねるしかありませんが、「街の景観は人々の心を育むものであり、街の景観が崩れれば人々の心も崩れていく」のです。

欧州には、古くからある街の景観を残しながら暮らしている地域が数多くあり、そうした日常的な景観が多くの人々を惹きつけてもいます。

「日本の気候風土に合うと同時に、日本人の美意識を反映した建築手法でもある『土壁』の建築が、暮らしが息づく街の景観になってほしい」「そのためには建築家に、一生に一度でもいいから、日本の気候風土に根付き、歴史に耐えて後世の日本に伝えられるような建築を創ろうという気概を持ってほしい・・・」

伝統を大切にするからこそ革新的なことに挑戦し続ける「土のマエストロ」挾土秀平さんの願いです。

 

秀平組
http://www.syuhei.jp

大河ドラマ「真田丸」の題字を描く

職人社 秀平組 外観

取材後記

挟土さんから真っ青な土を見せられて「100%土だけでこういう色を出しているんだ」と聞かされた時は驚きました。

日本を代表する左官職人と言われる所以の一端を見せられた思いでした。 (取材:上野)

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