プロの住宅レシピ 境界がほどける視線の抜け──鎌倉に佇む穏やかな週末住宅
松岡 淳
鎌倉に建つこちらの住まいは、ウィークエンドハウスとして計画されたご夫婦のための住宅。
「料理を楽しむ時間を中心に、自然を感じながらゆったり過ごしたい」というご要望のもと工務店からのご紹介で始まった計画でした。
建物の中心に配したキッチンは、どちらからも回れる回遊動線で、家族や友人が自然と集まる場所に。
限られた面積の中でも広がりを感じられるよう、窓や壁の納まりを徹底的に整えています。
注目したいのは枠を極限まで削ぎ落とした奥の開口部の窓。ガラスの存在を感じさせないほど“何もない”ように見える設計です。
外との隔たりをなくし、空間そのものを自然に溶け込ませるための工夫で、実際の広さ以上の奥行きと穏やかさが生まれています。
機能としては空間を仕切りながらも、視線の行き止まりをなくし、内と外を穏やかにつなぐ⸻“何もない”を意匠とした建築の哲学が息づいています。
和室では部屋の角の柱を抜き、照明をうまく配置することで昼は外光、夜は間接光が空間を包みます。
屋内外の境界を曖昧にしながら、日々の時間の流れがそのまま暮らしに溶け込んでいるのです。
機能を極めながらも“何もない”を美しく見せる。そこには余白の中に豊かさを見いだす思想と、それを楽しむお施主さんの感性が静かに響いています。