ホームビルダー松岡 茂樹さん

「顧客にとっての当たり前を実現させたい」が、独立のきっかけ  

 

学生時代に建築を学び、卒業後は工務店に勤めていた松岡さんが独立するきっかけとなったのは「業界の当たり前」に疑問を持ち続けていたことでした。

 

住宅建設を請け負う工務店は、必要な資材や機器を調達し、大工や左官・設備などの人材を束ねて現場をマネジメント(管理)します。

松岡さんが疑問に思ったのは、調達する(仕入れる)資材や機器に、工務店が10%なり15%を管理費や諸経費として単純に上乗せして見積を作成していることでした。

 

10万円の機器なら11万円、50万円の機器なら55万円の見積になるわけです。

 

しかし多くの場合、資材や機器の価格と設置にはほとんど相関関係がありません。

例えばドアを調達・設置する場合、10万円のドアでも50万円のドアでも設置にかかる手間はほとんど変わらないのですが、5倍高いドアを選んだ施主は商品代のみならず管理費まで5倍高く支払うことになる訳で、「業界ではそれが当たり前だよ」と言われても、松岡さんには「自分が施主だったら疑問に思う。施主にとっての当たり前ではない」と感じ続けていたのです。

 

そもそも工務店の重要な役割は「現場・工程をマネジメント(管理)すること」で、この役割があってこそ住宅などの建築がスムーズに進行します。

実は、これまでの日本では住宅建築マネジメント(管理)のようなソフト経費にお金を払うことへの理解が進んでいなかったこともあって、管理費や諸経費を適正に計上することが認められにくかった・・・そんな事情もあって(工務店が)商品代金に上乗せせざるを得ない、という事情がありました。

 

しかし「それでは工務店本来の仕事内容がいつまでたっても評価されないままだし、こういうやり方を続けているからこそ『工務店はピンハネしているだけだ』なんて言われるのではないのだろうか」

問題意識を強く持った松岡さんは、自らの考えを実践するために1995年に独立を果たします。

全てをオープンにする

独立当初から、松岡さんが担当する住宅では、資材や機器・職人さんの費用に至るまで、全ての仕入れ価格がオープンにされており、その上で、現場マネジメント費用として管理経費を計上しています。

 

商品等の仕入れ価格に1円も上乗せしていませんから、当然ながら他社に比べると管理経費は高くなりますが、「住宅建設には現場マネジメントがすごく重要ですし、頂く費用以上の仕事をしているという自信がありますから堂々と出します(松岡氏)」し、今では建築家や施主からも認められています。

 

昨今では、設備機器などを施主自身が購入して工務店に取り付けだけを依頼する「施主支給」というシステムが増えつつあり、これを嫌がる工務店も多いのですが、松岡さんは問題なく受け入れています。

 

「機器が故障した際など、機器の問題なのか施工の問題なのか分からないから(何かあった時に一義的に工務店に責任を負わせられるよう)工務店経由にしたい」という建築家もいますが、松岡さんは「どちらの問題かを切り分ける調査に伺うところまでは管理者としての責務として実施しますし、それも含めての管理経費ですから全然問題ありません」と言い切ります。

 

こうした極めてオープンで明快な仕事の進め方は口コミで建築家や施主の間に広がっていき、何よりも現場マネジメントのプロとしての矜持を持って卓越した仕事ぶりを見せる松岡さんを信頼して依頼する建築家が増えるようになったのです。

施主と建築家のためにこそ、相見積には応じません

通常の住宅建設では、建築家が作成した設計図面を複数の工務店に見せて相見積を取るのが「業界の当たり前」です。

 

しかし、ここでも松岡さんは「相見積であれば、やりません」と、敢えて常識に逆行するやり方を貫いています。

一見、自信満々で上から目線的な態度にも見えますが、相見積を受けない理由は「それが結果的に建築家や施主のためになるから(松岡氏)」です。

 

施主や建築家は「少しでもいい家を作りたい」と願いますから、希望を図面に落とし込んでいくと、先ず間違いなく予算をオーバーしてしまいます。

相見積を実施した場合、最終的に一社を選んだとしても、設計や仕様の変更を強いられるのが実情で、建築家や施主には余計な時間がかかりますし、施主がふくらませていた夢も一部しぼんでしまうことになります。

 

しかし、相見積ではなく特命の場合だと「住宅の計画初期段階から一緒に参加できるようになります。予算や希望を踏まえて、現場側からの積極的なアドバイスをさせて頂くことで、予算を考えながら実現可能な設計をして頂けますし、時にはミーティングに職人なども参加させることで、施主と建築家・現場が気持ちの上でも一体となって作りあげていく体制ができることにもなるのです(松岡氏)」

 

建築家と施主が決めた事を「請け負う」のではなく「初期段階からパートナーとして一緒に作り上げていくやり方こそがベストである」松岡さんはそう確信していますし、実際にきめ細かな対応をしているからこそ、建築家は納得して次の案件もそのまた次も松岡さんを指名しているのです。

住宅マネジメントを「職能」として確立させる!

建築家を通じて数多くの仕事依頼が舞い込む松岡さんに対して「人を入れて、もっと規模を大きくしたらいいのに」という声もあります。

 

しかし「自分の目が届く範囲でやらないとダメだと思っていますから」と言って、事業規模をいたずらに大きくする気は全く持っていないのです。

こういう一本気なところも「住宅マネジメントの匠」たる所以です。

 

独立当初から、松岡さんには「住宅マネジメントという仕事が『職能』として世間に認められるようにしたい」という夢があり、個人としてはそれが叶いつつあります。

 

しかし、それはまだ松岡さん本人だけにとどまっているのも事実です。

 

自身の事業規模をいたずらに大きくする気はない松岡さんですが、「今のスタッフの中から、自分のやり方を踏襲して独立できるようになってくれれば嬉しい」という想いは持っています。

 

それは、自分のような人材が世の中に増えていくことが「住宅建築マネジメント(住宅管理)という仕事が『職能』として評価されるようになる」と考えているからであり、それこそが松岡さんの最大の夢でもあるからです。

 

誇りを持って住宅建築マネジメントに取り組む後輩が続々と誕生する日を夢見ながら、松岡さんは走り続けています。 (取材:上野)

私が推薦します

建築家 山下 保博

優れた建築を創るためには「建築家」と「構造設計者」「施工担当者」が高いレベルで共鳴し合っていることが重要だと思います。

富士山のようにすそ野が広いからこそ高い山になるように、建築家と構造設計者・施工担当者のいずれもが深い知識と豊富な経験を持った上で「協働して」高みをめざしていく・・・そんなマインドを共有していることが必要なのです。

難しい現場になればなるほどホームビルダーの松岡さんを指名するのは、建築を通じて互いに刺激し合える関係でいられるからです。

松岡さんは「おもしろいもの・やりがいのあるものを創ることに価値を見出す」施工担当者であり、建築家の意図を理解した上で、豊富な知識と経験を基に構造やコストの事を考えて真摯で実現可能な提案(時には注文)をし、着実に実行してくれます。

気づいてみると、私の建築作品のうち「スペシャル」と呼べる作品の大半が松岡さんとの共同作業です。

意匠やコスト面で難しい依頼が来ても「松岡さんと組めばやれるだろう」と思わせてくれますし、彼との打ち合わせは本当に楽しみなのです。

「松岡さんと一緒に、これからも世の中にないものを創り上げていきたい」・・・心からそう思っています。

 

アトリエ天工人

http://www.tekuto.com