建築界のデジタルエンジニア竹中 司さん

ハーバード大学で発表した形態生成プログラム例

先進建築学に魅せられて

「先進建築学」という学問領域をご存じでしょうか。

1981年、世の中にパーソナルコンピュータが登場したころにアメリカで誕生した先進建築学は、「コンピュータという道具と対話」し「知能を増幅する道具」としてコンピュータの可能性を最大限に引き出すことで、建築の現場にイノベーションを起こそうとするものです。

 

美大建築学科卒業後に大学で教鞭を取っていた竹中司さんが、2005~08年、海外に赴任して運命的に出会ったのが、この「先進建築学」でした。

その大いなる可能性と奥深さに魅せられた竹中さんは帰国後、先進建築学を実践するためのアンズスタジオを岡部文氏と共同で立ち上げます。

 

アンズスタジオの主なテーマは2つあります。

コンピュテーショナルデザイン

一つめは、手の仕事を超越したコンピュータならではのデザインである「コンピュテーショナルデザイン」です。

 

雲のような、森のような、といった頭の中の自由で抽象的な形、あるいは日照や風・音などの、刻々と変容する自然環境との対話から生まれる形、構造条件などをはじめとする工学的要因や、さらにはクライアントや訪れる人々など受け手の印象から導かれる形。

デザインを決定する上で必要となる多様で複雑な情報をコンピュータという道具で扱い、豊かな形を描き出すにはどのようにしたら良いでしょうか。これに答えてくれるのがコンピュテーショナル・デザインという手法なのです。

 

竹中さんが手がけた日本橋タワーエントランス部分における壁面制作の実例をみてみましょう。

 

この壁面制作にあたっては、設計者から「さり気なく、誰もが心地良く感じられる壁面を作ってほしい」・・・そんな極めて難しい要望を与えられていました。

 

これに対して竹中さんは、「たわわに実った稲穂が、風に揺れながら広がっている収穫前の広大な畑」という、気持ちの良い抽象的イメージを出発点に、デジタル技術を駆使し、豊かな光景を描く道具を開発します。

 

風が舞う繊細なイメージを表現するため、数値流体力学の乱流モデルを活用して風のリズムをアルゴリズム化。これを「風形」と名付けます。これに加え、階層的に分散させる乱数を用いて、ダイナミックな穂先の流れを再現する「ゆらぎの形」をプログラム技術で描き出してゆくのです。

 

論理的な数値を根底に、感覚的なイメージからゆっくりと立ち現われるリズミカルな形は、心地の良い印象を持っています。これを、一つの金型から切り出した、わずか4段階の長さの金属ルーバーに置き換え、実際の形として表現してゆきます。

 

ルーバー形状の長さや向きを変えながら、何度も組み合わせのシミュレーションを繰り返し、風にたなびく広大な稲穂のイメージを出現させたのです。

 

完成した大きな壁面は、CFD解析から導かれた動的なリズムによって変化するLEDの光演出と共に、感覚的な世界を描き出しています。

 

NBP大崎ビル ランドスケープ計画図(設計:日建設計)

嬉野市社会文化会館折り紙ホール 音響解析プロジェクションマッピング(設計:末光弘和+末光陽子 SUEP)

デジタルファブリケーション

二つめは、設計・デザインから施工現場に至るプロセスをシームレスにつないでモノ作りを行う「デジタルファブリケーション」です。

                               

コンピュータを使えばいくらでも複雑なカタチをデザインすることはできますが、建築と言う以上、デザインをどう実現するのかまで考えなければ、まさに絵に描いた餅です。

しかし、複雑なデザインであればあるほど、それを施工現場で実現するためには極めて優秀な職人の存在が不可欠で、そんな職人を一箇所に集めるのは難しいこともあって、結果として設計・デザイン側と施工側の乖離が生まれる余地を残すこととなります。

 

そんな状況を打破できる可能性を持つのが「デジタルファブリケーション」です。

 

これまで、建築の世界では設計における3次元データを2次元図面に落としてから施工現場で再び3次元に組み立てる・・・という工程を経ていましたが、3次元データのままで施工までできるようになれば、設計から施工現場までがシームレスになり、両者の乖離はなくなります。

 

竹中さんはコンピュテーションやロボット技術を活用して、3次元データのままシームレスな現場施工を実現するため、デジタル・コンストラクションを研究・開発するアットロボティクスという会社を立ち上げました。熟練技能者の巧の技を活かし、職人と協働できるロボット支援型の技術開発に注力しています。そして、既に数多くの現場でデジタルファブリケーションを現実のものとしています。

 

ロボットによるデジタルファブリケーション

建築の未来へ向かって

今後、コンピュテーショナルデザインやデジタルファブリケーションを実現するための一つの方向性として、技術力のある中小企業をつないでいこうと竹中さんは考えています。

各々の得意分野をデジタルでネットワーク化してものを作っていこうという訳です。

 

この仕組みは、住宅建築の現場で既に実践されました。

 

デジタルデータを作成して、そのままデジタル工作機械でモノ作りのできる地元企業と連携しながら、様々な建築素材を作ってもらいます。複雑な形状はロボットも駆使して製作します。

 

結果として施主や設計者の想い通りの住宅が地産地消によって完成した訳ですが、今後はこうした「地域の中小企業の技術をネットワーク化」することによって複雑な形状や様々な形を実現させながらコストも抑えることができる、そんな可能性を追求していこうと考えています。

 

コンピュータやロボットをフル活用して建築を設計施工する世界はまだまだ奥深く、今はまだ緒に就いたばかり・・・そう考えている竹中さんですが、既に日本を代表する一流建築家たちと数多くのコラボレーションを実現し、彼らをして「コンピュータを建築に活かすことにかけて日本で竹中さんの右に出る者はいない。世界でもトップレベルのデジタルエンジニアである。」・・・そう言わしめています。

 

日本建築界の未来をITによって切り拓き、その最先端をひた走っているのが竹中司さんだと言えるのではないでしょうか。

 

株式会社アンズスタジオ
http://www.ans-studio.com

住宅開発プロジェクト 三次元プリント模型

講演する竹中さん

取材後記

ITやAIは我々の世界を大きく変えていますが、建築の世界でもここまでできているのか、そう思わされた取材でした。 (取材:上野)

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