二戸一の大きな家

作品紹介

計画地の地域は設計者が生まれ育った町である。
もともとは農村集落であり、かつては田んぼが多く残っていて、稲刈りの後はそこが広場となり、脇に流れる水路も通りも格好の遊び場となっていた。地の人の家の多くは大らかな入母屋の屋根を有し、堂々とした構えをもっていた。しかし宅地開発によってつぎつぎと土地が細かく切り売りされてしまい、その土地に目一杯の容積を詰め込んで、斜線制限によって歪に切り取られたボリュームの戸建住宅が立ち並び、この町の風景や多様さは失われていった。今計画においても当初は、不動産事業を目的として周辺の格安建売住宅と同程度の工事費で2棟の賃貸用戸建住宅が求められた。
限られた予算の中で、今後人口の減少が見込まれるこの町において、既存の戸建住宅とは異なる住戸のストックの必要性と、かつての屋根の風景や子どもたちの遊び場といった、地域に開かれた在り方の可能性を考えた。

施主と議論を重ね、住宅2棟を一体化して二連長屋(通称二戸一)とし、将来的に界壁を抜いて一つの大きな家にできる計画とした。
民法の離れ1m分の余裕を確保でき、引きを取りながら自立した構えを持たせる。外構は道路が広がったような場所としており、近所の子どもたちの遊び場になりえる。
ローコストを実現するために、二戸一化のスケールメリットによる減額に加えて屋根形状やファサードも規格品の寸法や作り易さから決めている。構造体は、極力プレカットで対応できるよう各接合部を一点へ集中させずにずらし、減額を計りながらニュアンスをつけている。屋根架構は45度振ったX型で周辺に対して開く向きをつくり、左右で完結しつつ一体化した際には新たな全体性を帯びる。

町の新たな住宅ストック、屋根の風景、遊び場といった課題に向き合いながら、現代から、そして高度に工業化された商品住宅のコードから農村の民家の佇まいに再接続している。

 

■Photo:中山保寛

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