田野建築設計室
住所: 京都府京都市左京区一乗寺
TEL : 075-756-0688
E-mail
:mail@tanoarchi.com
URL : https://tanoarchi.com/
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■ 鞍馬口の家
自分が地上からどのくらいの高さに居るか、地面との距離感、空の広がり方、窓からの風景、風の強さ、出会う虫の種類など、小さな現象から大きな現象までの微細な情報が身体感覚を揺さぶってくる。地面に近いところにいると、地上から空の広がりを見上げ、展望台のような高い場所からはミニチュアのような地上の広がりを一望する。
日常的な状態としての住宅であれば、本能的に地面との関係を考える。人間は地上の生き物として地面との関係を感覚的に捉えようとする。建物の頂部に構えるペントハウスの魅力はそこが一番上だと認識する屋根との距離感にある。屋根はその上に広がる空を感じると同時に、その下に地面があることを伝える。勾配屋根は降り積もった雨を下に(重力をして)導くことで、雨の流れを想像し、地面に浸み込んでいく様から地上を感じる。地上〇mの楽園は、地上との距離を図ることで成立する居場所である。
5階部分に位置する本計画では、眼下に広がる瓦屋根の街並みと広い空、遠くに臨む山並みを暮らしに定着させるための勾配屋根(勾配天井)を設け、ここが地面からどのくらいの高さに居るかを認識する指標を考えた。勾配天井によって低く絞られた風景は、窓辺に近づくと広がりを感じ、部屋の奥からみると、室内風景と相まって不思議と風景が近くに感じる。窓辺には腰壁のあるベンチを配し、部屋の奥には元押入部分を暗がりのある書斎とし、籠れる小間を設えた。南北をすり抜けるように視線と導線を繋ぎ、点在する異なる居場所(小間)が住み手の暮らしの気分に寄り添う。
人の心の在り方は必ずしも一定でなく、揺れ動いている。小さな居場所(小間)を点在させることは、常に揺れ動いている人の心の居場所として、有効に機能すると考えている。
Photo : Yohei Sasakura
■ 小さな居場所がつなぐLDK
マンションの一室をリノベーションした住まい。
主室となるLDKは、リビングダイニングであり、子どもの遊び場であり、それぞれの居場所でもあります。限られた面積のなかで「どのように居場所をつくるか」…閉じた個室ではなく、小さな居場所がゆるやかにつながりながら一室空間を構成するアイデアが詰まっています。
例えば、空間の中心に置いたローキャビネットや窓辺のベンチは可動式で、場所や向きを自由に変えることができます。囲むように配置することで落ち着くスペースにも、端に寄せることで開放的な空間にもなり、気分やシーンに合わせて自在に変えられます。
キッチンは壁付けのI型とし、インテリアの一部として見せるデザインとしました。キッチンは水や汚れに強いメラミン材を使用しながらも、引き出しの取っ手を無垢のウォールナット材にすることで、家具のような印象です。食器や器具もリビングの一部として考えることで、空間全体の一体感が高まり、居場所のひとつとなっています。
開口部はもともと全面が掃き出し窓でしたが、あえて一部に腰壁をつくり格子窓のようなデザインにすることで、ベンチに腰掛けて外を眺める居場所として再構成しました。マンション特有のアルミサッシの存在感を無くすため、サッシ框の前には木の柱を立て、床を少し上げて隠し框にすることで、木製建具のような木質空間の雰囲気をつくりだしています。
限られた面積だからこそ、多様な居場所と空間のつながりを丁寧に設計。そこに遊び心が添えられることで、「暮らしを楽しむ家になった」と感じています。
Photo : Yohei Sasakura