Story 002
千葉県君津市 S邸
緑の庭とゆるやかにつながる、美しいウィークエンドハウスの物語

奥様のお気に入りの一角

ファイアーピットある庭につながるリビング

美しさを追求した外観

お庭で積んだフレッシュなハーブでドリンクを

週末は非日常を愉しむ。 二つの家がある暮らし

 
気持ちもスペースも広々ゆったり暮らしたい 田舎育ちの夫と都会育ちの妻。
そんな二人が建てたのは、やわらかな緑に囲まれた凛とした佇まいの平屋建てのウィークエンドハウスでした。

 

都内から東京湾アクアラインを経て車で1時間ほど。房総半島の緑眩しいキャンプサイトの一角にS邸はあります。木々に囲まれたアプローチから現れるのは、グレイッシュな色調と大きく水平に伸びた軒のシャープさがモダンな家。くっきりとした輪郭が印象的な平屋建ては、緑に包まれてそのスタイルの美しさがさらに際立ちます。


迎えてくれたのはSさんご夫妻。リビングに足を踏み入れると、一面のガラス窓から手入れの行き届いた庭が広がり、まるで緑の中に暮らしているような錯覚すら覚えます。アッシュグレイの床、黒い薪ストーブ、白い壁とやわらかな光を通すシェイド、グレイのソファ、アイアンのオブジェなど、外観同様グレイに統一され、シックで透明感のあるインテリアに目を奪われます。リビング脇には、ガラスの引き戸で室内からアクセスできるインナーテラス、そこから屋外テラスと焚き火ができるファイアーピットのある庭へとつながります。「自宅はここから車で30分。金曜の夜仕事が終わるとここへ移動して週末を過ごします。そして月曜の朝に直接職場へ向かう。ほぼ毎週です」とご主人。

 

「自宅は“日常”だけど、ここは“非日常”。ここには生活に必要なものではなく、シンプルに好きなものだけ置くようにしています」。

時間の認識を鈍らせる為、あえてぱっと見た瞬間に時間がわからないようなデザインの時計を選びました、とSさん。非日常の演出に一役かった粋なアイテム。

シックな色合いが絶妙なコーディネートは奥様のチョイス。

コンセプトは「家族の集う家」 ウィークエンドハウスのはじまり

 

自宅のほかにもうひとつ家を持ちたいと考えたのは、ライフステージの変化から。

「3人の子どもが巣立って、孫が生まれたんです。半分は孫のために建てたといってもいい(笑)」。


「田舎育ちなので都会は性に合わない。歳をとるほど満員電車や人の多いところが苦手になって…。それに、自宅は子育てのために機能重視で建てたもので“遊び”がありません。終の棲家までを視野に入れ、広々とした家でのんびり暮らしたい、そして子どもや孫に田舎を作ってあげたいと思ったのがはじまりです」。

 

一方、東京生まれ東京育ちの奥様には、「あまり不便なところは困るし、せっかく建てても遠いと結局行かなくなる」という不安もあったといいます。

そんなお二人を動かしたのは「親子三世代10人で過ごせる場所が欲しい」という思い。そこからSご夫妻のウィークエンドハウス作りがはじまりました。

ロケーション選びが難航する中、たどり着いたのが今のキャンプサイト。自宅から気軽に訪れられる距離、充実したインフラ、緑豊かな敷地環境が奥様のお眼鏡にかなったのだとか。キャンプ場内の土地を購入したことで、「田舎によくある地域的な縛りもなく、とても住みやすい。キャンプ場オーナー権もついてきたので、ゴミもキャンプ場の置き場にいつでも出せるし、孫が来た時もプールなどのキャンプ場の施設で遊ばせてあげられます」と、様々なメリットがありました。

大人顔負けのおままごとキッチンはとってもオシャレ。なんとお孫さんのためにイケアの商品をご主人がリメイク。

“建築家と建てる美しい家”への飽くなき追求

 

ウィークエンドハウスを建てるにあたり、ご夫妻には確固としたひとつのイメージがありました。

それは「建築家の設計した美しい家を持つ」ということ。

 

 

平屋に絞り、ネットで様々な平屋をめぐってたどり着いたのが「アトリエ137」の鈴木宏幸さんの作品。鈴木さんは、一般住宅のほか、軽井沢などの別荘地で平屋建てのセカンドハウスを多く手掛け、「美しい家をつくる」ことに強くこだわる建築家の一人です。打ち合わせに際して持参したのは、ご夫妻が持つ「美しい家」のイメージのほか、間取りや設備の要望を記したご主人様作成の企画書。その甲斐あって、家の設計はとてもスムーズにすすんだといいます。

 

「もちろん、欲しいものすべてを手に入れるのはコスト的にも難しかったので、こだわらない設備や仕様はシンプルに。ミーレのオーブンはあきらめましたが、後付けできるよう配線してもらっています。気に入ったドイツ製のシェイドは、日本製で同じタイプのものを見つけてコストを三分の一に(笑)。収納スペース内にあるパントリーやシュークロゼットはイケアで買ったものを設置してもらいました」。

 

一方、面積が広いため部屋の印象を左右する床の色は、洗練されたアッシュグレイの発色が美しいドイツのオスモカラーにこだわりました。「外壁塗装もオスモ。新宿のショールームまで行って調べました」。オープンキッチンの換気扇も、カウンタートップの下にすっきりと収納できる海外製の伸縮式下引き換気扇を導入。「とことん調べつくしました。自分でも、これは家づくりのコンサルタントになれるんじゃないかなって思いましたよ(笑)。こだわらない設備はシンプルにしました」。

 

さまざまな取捨選択の結果、平屋建て、深い軒、薪ストーブ、ガラス張りのインナーテラス、ファイアーピットなど希望の条件を備えた、理想にたがわない“美しい家”を手に入れることができました。

ご主人様の当初の希望から絶対に譲れなかったものの一つ、ファイアーピットのある庭。

ウィークエンドハウスがくれた新しい暮らし

 

ウィークエンドハウスで過ごす週末は、「一日は夫婦でゴルフ。あとは庭仕事」が基本。「この家を建ててから、人生初めてのことばかり。庭いじりなんてしたこともなかったのに、外構も自分でやったんですよ。石をホームセンターで買ってきて敷き詰めて。地ならし用の道具も買いました。重労働だったけれど、だんだん家が育っていく、家を育てていくという感覚がたまらなかった」とご主人が言えば、「そうそう、ゴルフクラブを農機具に持ち替えた(笑)。筋トレにもなったよね」といたずらっぽく奥様の合いの手が入ります。庭の木々も、種類から株立ちの美しさまでを選び抜いたというこだわりようです。
 

 

奥様は「家が2つになってとても忙しくなった」といいます。「食料品の管理や掃除など家事は2倍。平日にも来て、庭の手入れなどをしています」。日曜の夕方、デッキで空を眺めるひとときが至福と語るご主人。奥様もご一緒に?と問えば、「わたしは食事の支度です」とにこやかにお答えいただきました。ご主人をして“完璧主義”と評される奥様のお力で、住まいの美しさはキープされているのだとか。

 


「孫が遊びに来て、庭で砂遊びやプールでたっぷり遊ばせてあげられることがうれしい」と目を細めるお二人。親子三世代10人が集合してもゆったりと過ごせる美しいウィークエンドハウスは、何にも代えがたい家族の時間をご夫妻に与えてくれたようです。

TVを見ない奥様と巨大なTVが欲しいご主人様。両者せめぎあいの結果、なんとかお許しのでたというシアタースペース。

右側の丸い敷石は、ご主人様ご自身が作られた場所。とても美しい仕上がりです。

もうひとつの家だからこそ実現できた、非日常

お気に入りの庭を眺めるSご夫妻

鈴木さんの手がける作品の魅力の一つ、インナーテラス。Sさんが絶対に欲しいと追及した、自然を感じながら快適に過ごせる空間です。

Q&A -Sさんご夫妻へ5つの質問-

Q1:お気に入りのスペースは?

ご主人:鈴木さんの作品に欠かせない、インナーテラス。このあたりは雨の通り道らしくて、雨もよく降ります。雨の降っている日に、ここに座ってぼーっと外を眺めるのが気に入っています。カエルもよく遊びに来るんですよ。あとは絶対欲しかったファイアーピット。先日ここで燻製を作りました。


奥様:スツールにスタンドライトを置いた寝室の一角。見るたびに、「色合いといいバランスといい、やっぱりこれがベストだったな」とうれしくなります。

Q2:家づくりで楽しんだところ、苦労したところは?

ご主人:建築家と家を建てると、施主が自分の好きなものを自由に選べる楽しさがあります。型にはめられず、コストも納得しながら自分が好きなものだけを集めた家が作れてうれしかったですね。こんなものを使いたいんだけど、と鈴木さんに相談すると「ああ、いいんじゃないですか」と言ってくれる(笑)。私がイケアで買った収納やネットで取り寄せた水栓を使って施工してもらっている箇所もあります。

Q3:ウィークエンドハウスを建てて変化したことは?

ご主人:まず、Amazonで買うものががらりと変わりました。履歴を見たら、別人じゃない?(笑)っていうくらい。草刈り機や芝の種など、庭仕事のものばかり買っています。まさか自分がこういうものを買うようになるとは思ってもみませんでした。あと、近所にはリタイヤ世代が多く、様々な経験を重ねてきた方々との交流もとても刺激的です。家を自分で建てられるという方がいて、うちの離れも作ってもらったんですよ。

Q4:ウィークエンドハウスで過ごす、一番好きな季節は?

 ご夫妻:庭の木はほとんどが落葉樹なので、冬は視覚的にさみしいです。でも冬の薪ストーブは最高!そして、春になって植物が芽吹いてどんどん緑が濃くなっていく景色はほんとうにすばらしい。春先にインナーデッキでランチをしたり、夏の夜にデッキに座って星を見上げたりと、季節ごとにいろんな風景を楽しんでいます。

Q5:これから家を建てる人へ一言おねがいします

ご主人:ハウスメーカーなら、リーズナブルで大手の保証もあって安心かもしれません。でも、自宅を建てた際の、決められたパーツをカタログから選ぶといった型にはめられた家づくりはわたしには苦痛でした。建築家となら自分のイメージから家を作ることができる。家づくりに工程から関われるのが、建築家との家づくりの醍醐味だと思います。

取材後記

建築家の鈴木さんとSご夫妻の化学反応が作り出した、アートのようなお住まいでした。丹精されている庭とシンプルでスタイリッシュな建物のコントラストが見事。奥様お手製のモヒートのおいしさは忘れられません。(ライター:永井)

 

グリーンの芝と青空の境界にすっと広がるように佇む美しいSさんの住まい。「美しい」という感情は、こんなにも人の記憶にささるものかと時間が経つにつれてその影響力の大きさを噛みしめています。別荘のように年に時々、ではなく「毎週末」という毎日に根差した暮らしというのがまた非常に素敵な選択肢と思いました。Sさん、atelier137さま、ありがとうございました。(編集:森本)