Story 3
神奈川県鎌倉市 寺坂邸/店名 sawvhi ソウビ
鎌倉の森に住まう 隠れ家・糀カフェの物語

キッチンにいても、家族団らん。みんなの顔が見える安心の空間。

 

糀(こうじ)を暮らしに取り入れる提案がしたい―。

そんな思いから、福井で代々続く糀屋の次男がオープンさせた糀カフェ。

こんもり茂る鎌倉の森。その入り口に建つ2階建ての店舗兼住宅を訪れました。

 

鎌倉・浄明寺の森にたたずむ糀カフェを訪ねる

 

鎌倉の街外れ、バス通りからだんだん細くなっていく路地をたどり、緑のトンネルをくぐり、このままだと森の中に迷い込んでしまうのでは・・・と心配になったころ、さりげない木の看板が目の前に現れます。グレイの外壁に映える温かみのある木のドアと窓。緑濃い鎌倉の森を背景に、すっきりと端正な表情で糀カフェ「sawvih(ソウビ)」が迎えてくれました。

 


ここは、オーナー寺坂寛志(てらさか・ひろし)さんの店舗兼住宅。糀をテーマに衣食住の提案をする店として、2018年にオープンしました。

1階が店舗で、入り口近くはアクセサリーやオリジナルアパレルなどの物販スペース。離れのようなカフェには、中庭を通り抜けアクセスします。竹林に囲まれた一室では、福井の糀を使用したドリンクやスイーツが味わえます。6人掛けの大テーブルで、味噌づくりや甘糀づくりのワークショップを開催することも。

 


住居は2階の1LDKとロフト。開放的な吹き抜け、白い壁とやわらかな無垢の床。子どもたちの様子をみながら料理が作れるようにと、奥様の志帆さんの要望でオーダーした広々としたオープンキッチン。いくつもの窓からは鎌倉の空と家々の屋根、そして豊かな緑といった清々しい景色が広がります。LDK隣にある寝室兼プレイルームの窓の外には、隣家との間に山桜と梅と紅葉が一列に並び、季節ごとに目を楽しませてくれるのだとか。「お隣も植物がお好きで、一緒に育てようねって話してます(笑)。ご近所は素敵な人ばかりですよ」と寺坂さん。

 

1階のカフェ入口。木のぬくもりがあたたかい玄関アプローチ。

料理するとき以外は何も置かないのが奥様流。フラットで使いやすいキッチンです。

 

 

 

糀文化を伝える店を作る。鎌倉の土地と建築家との運命の出会い

 

日本の文化である糀を広く伝える店を立ち上げたい。

 

 

「鎌倉に店を持つことになったのは、ほんとにたまたま」。

寺坂さんは、大学で機械工学を学び、5年間の会社勤めを経て、「都会に行きたい」という気持ちが高じすぎてカナダへ語学留学。「後先考えずに行動するタイプなんです」とにこにこ笑います。留学期間に飲食店の立ち上げに関わったことで、“事業立ち上げ”の面白さを体験。そして、実家は福井の農家であり糀屋。日本の文化である糀を広く伝える店を立ち上げたいという気持ちが生まれたといいます。

 


帰国後、店の場所を留学先で知り合った志帆さんの実家に近い湘南で探し始め、この鎌倉の土地を紹介されました。しかし駅からも遠く、目指してこないとたどりつけないこのロケーションに周囲からは反対の声も。でも、寺坂さん自身は「何とかなるでしょって思ってた」。そして後押しするように「ここがいい」ときっぱり言い切ったのは志帆さんでした。この場所に着くまでの緑に包まれる“トトロ感”と、そこに広がる非日常の緑の風景に心惹かれたのだとか。

 


一方、建物の設計に関しては、葉山にある「SUNSHINE + CLOUD」というショップがイメージの土台となりました。「モルタルの壁に囲まれているにもかかわらず、やわらかさがあってすごくカッコいい。この魅力はいったいどこから来るのか、と」お店の雰囲気にひと目で心奪われ、設計を担当した人を紹介してもらったところ、その建築家が「佐賀高橋設計室」の高橋正彦さんでした。寺坂さんは会ったその日に、設計をお願いしようと即決したそうです。

 

 

「この人と作ったら絶対楽しい!と思った。建築家に設計を頼むって、その人の作品に自分たちの要望を汲んでもらって形にしていただくってことなんだろうと想像していましたが、高橋さんは全く違う。“先生”って呼ばないでって頼まれて(笑)、友達感覚でいいよと」

キッチンにいても子どもたちとおしゃべりできる距離。

木製ダイニングテーブルが家族の集う憩いの場所。自分のお茶があるけど、お父さんの飲み物が気になっちゃう(笑)

建築家と共有した、最高に楽しい家づくりの時間

 

目指したのは、森に囲まれたこの場所の空気をそのまま家の中まで取り込むこと

 

家のコンセプトは、寺坂夫妻が気に入った土地の魅力を最大限に生かした、自然を感じられるモダンでシンプルな建物。新たに何かを加えるのではなく、森に囲まれたこの場所の空気をそのまま家にしたかった。


そのための高橋さんからのアドバイスは、“邪魔なものを置かない”こと。まず、一段高台にあるため周囲からの視線が気にならないといったメリットを生かし、カーテンはつけないことにしました。窓周りに何もないと、部屋の空気も軽やか。木の格子窓からくっきり切り取られた絵のような空と森の風景は、この家の大切な構成要素となっています。「建具もいらないよねって話になって…」。家の仕様も設備も家電もシンプルさを突き詰めていったといいます。「必要じゃないけどカッコいいから、という理由でつけたものはありません」。

 


プラン作りに約半年。月2回ほどアイディアを持ち寄って打ち合わせを繰り返しました。「回数多いですよね(笑)。でも、考えてる時が一番楽しいから、この時間を一緒に楽しみましょうって言ってくれました」。高橋さんの提案は、寺坂さんの持つ家のイメージにことごとくはまっていきました。「デザイン性だけでなく、家族の暮らしや住まい方、生活動線などもよく考えてくれました。家の模型を見ながら相談しているうちに、高橋さんは色鉛筆でラフを書き始める。その中で暮らしのイメージがどんどん広がっていくことに感動しました」。高橋さんとの家づくりの喜びが、今も寺坂さんの中に息づいていることが感じられます。

TVが大好き!という奥様の為、壁付のTVはアーム付き。角度は変幻自在。お料理中でも好きなTVが見られます。

子どもたちの描いた絵にほっこり。

鎌倉の森に暮らす幸せと家づくりがもたらした心の変化

 

必要なものは買わないで工夫するようになった

 

 

約半年の施工期間を終え、住み始めて1年半が経過。お気に入りは、何といってもダイニングから眺める木の格子窓です。室内ながら森に暮らしているかのような景色に、志帆さんもキッチンから「いいなぁ」と言いながら眺めているといいます。雨の日でも部屋を明るくしてくれる天窓も気に入っているそう。シンプルながら独特の雰囲気のあるペンダントライトは、兵庫の照明器具メーカー「flame」のものです。

住んでから気づいたのは、「収納は多すぎるくらいがちょうどいい」を念頭に作ったはずの収納が本当はもっと必要だったということ。そして、木の建具は、湿気で立て付けが悪くなるということ。「言ってみれば、それも楽しんでいるところがあって(笑)。建付けが悪くなると、今日は湿気が強いんだな、季節が変わってきたんだなって感じられて面白いです」と笑います。

 

 

家を建ててから、必要なものは買わないで工夫するようになったという寺坂さん。自分で家を作るという経験を経て、「既製品を買うのではなく自分でぴったりのものを作ったり、無いなりにどう工夫していこうかと考えたりするようになりました」。家電も無いなら無いで何とかなる、と言い切ります。

ファッションが大好きという寺坂ご夫妻。玄関横にはシューズクローゼット。

2F住宅のリビング。大きな窓からみえる森の景色は、寺坂家の大のお気に入り。

高橋さん登場! 二人で作りあげた宝物のような窓

 

家づくりが終わっても、まだまだ続く2人の縁。

 

取材も中盤に差し掛かったころ、ひょいと顔を出した高橋さん。

「ちょうど近くに仕事で来たんで、寄ってみたよ。」

 

ラッキーチャンスとばかりに、高橋さんに設計時に大切にしたことを伺うと、「この土地の持っている力をどう建物に生かすか」だったと答えてくれました。

 

高橋さん:「ここは、水はけの悪さ、高い湿度、山のような枯れ葉と、かなり過酷な環境。でもそれ以上にいい部分があった。2階からの抜けた眺めと豊かな緑の環境をどう生かすかと、寺坂さん一家がここでどう暮らしていくのかを考えながら設計しました」。

 

寺坂さん:「水はけの悪さを解消するために、高橋さんが砂利を入れて溝を作ることを提案してくれました。そうでなかったら今年の梅雨には中庭が洪水になっていたと思います(笑)。今みんなに、いいところですねって言ってもらえるのは、ひとえに高橋さんのおかげと感慨深げ。

 

満足いく家を建てるには、理解しあえる相手とするのが一番、と語る二人の表情を見ているだけで、それがどれだけ意味のあることであるかがわかります。

最後に、高橋さんに、一番成功した場所は?と問えば、やはり2階の格子窓。「景色がうまく切り取れて、しめしめって思いました(笑)」。寺坂さんと高橋さんのお気に入りの場所が全く同じであったことに、だよねぇと2人とも嬉しそう。まさに、以心伝心。寺坂さんは家づくりを通して、最高の家だけでなく高橋さんという最高の友人を得たようでした。

全員集合!

左:高橋正彦さん(建築家)

右:寺坂一家

子どもちゃんは髙橋さんに遊んで欲しくて、おおはしゃぎです(笑)

Q&A -寺坂さんへ5つの質問-

Q1:「sawvih(ソウビ)」という店名の由来を教えてください

糀の文化を衣食住すべてに「装備」するという意味からきています。“身に着ける”そして“美しくなる”という意味合いで、「壮美」「薔薇」(そうび)という漢字も同時に充てています。アルファベットでは「sawvih」。この綴りには、“人生の収穫期”という意味を込めました。

Q2:家電についてこだわったところを教えてください。

冷蔵庫はフレンチドアのAQUA。SANYOを買い取った中国メーカーで、デザインはスタイリッシュだけど余計な機能がなくて価格もリーズナブルです。冷蔵と冷凍だけのシンプル設計で大容量。子どもが小さいので、冷蔵庫が大きいと何かと助かります。食洗器はAEG。食洗器は業務用で、奥行きもあってめちゃめちゃいっぱいはいりますよ。日本のメーカーも見たけれど、やっぱり容量の大きさにこだわりました。IHもAEG。魚焼きグリルがついていないのが決め手。だって、使わないものはいりませんよね。フラットボタンがシンプルで家電っぽくないでしょ? あと、レンジはバルミューダ。余計なものを省き、必要な機能だけ手に入れる。引き算で選んだ家電ばかりです。

Q3:家づくりで参考にしたものはありますか

情報は基本的にウェブで収集しました。一番参考にしたのは、「収納は多すぎるくらいがちょうどいい」という個人のブログ記事。それを参考に、たくさん収納をつけたつもりが、今になってみてやっぱり足りないということに(苦笑)。夫婦ともに服が趣味なので…。次に家を作れることになったら、もっと収納が欲しいです!

Q4:この家の一番自慢したいところはなんでしょうか

夜に外から見た家の雰囲気。外が暗くて、窓から漏れるオレンジ色の灯りと外観のコントラスト、2階の格子窓の雰囲気がすっごくいいんです。自分はカッコいい家に住んでいるんだなっていつもワクワクするんです。

Q5:これから家を建てる人へのアドバイスをお願いします

希望があれば遠慮せず、建築家さんにぶつけてみること。それがお互いに一番ストレスにならないと思います。素人だから、と遠慮してちゃダメ! 高橋さんに言わせると「もっとこうして、ああして、という要望が欲しい。一人で設計やるだけじゃつまらない」んだそうです(笑)。それと、図面を見てもイメージがわかなかったら、その建築家の建てた家を見に行くのをお勧めします。あらゆる疑問が一発で解決すると思いますよ。

取材後記

この先にほんとにお店があるの?と不安になりながら、どんどん細くなる道をたどった先にあるステキ空間にすっかりテンションが上がりました。カーテンがないことが、部屋のデザインを最大限に引き立てることにも初めて気づきました。建物だけでなく、メニュー、アパレルやワークショップなどお店のコンテンツはどれも興味深かった! 次は糀スイーツをいただきに伺いたいです。(ライター:永井)

 

取材の日、予定外に訪れた髙橋さんに、寺坂さんの子どもたちが大はしゃぎで突進していったのを見て「ああ、家を"つくる"ってこういうことなんだなあ」とまた一つ、感じることのできる素敵なお住まいでした。家を買うだけでは得られない、大切な人の縁。そういうあったかい気持ちが思いやりとなり、かたちとなり、家の中いっぱいに息づいていました。施主と建築家を超えた、素敵な関係性。寺坂家のみなさま、佐賀高橋設計室さま、ありがとうございました。(編集):森本

 

 



店舗情報/神奈川県鎌倉市浄明寺5-6-1 sawvih(そうび)  

HP/https://sawvih.com/  10:00-18:00 水曜定休 tel.0467-37-5188 

 

HPより~福井県の米農家が営む糀屋 sawvih(そうび)と申します。糀のある生活。糀をテーマにした衣食住の提案。福井県産の自家栽培米(農薬不使用)を使った糀 味噌 米 お菓子の製造販売、農作業のために作られた質の高いデニムzenaなど。