Story 010
東京都世田谷区 高野邸
部屋を身に纏うように。可動式建具で変化するマンションリノベの物語

洗面台には、大好きなLISA LARSONの作品たち。

「こっちでギター弾くから、閉めようか?」 過ごし方によって、白い壁のような可動式の引き戸を開けたり、閉めたり。

夫婦ともに洋服が大好き。造作の収納ハンガーといい、この部屋の雰囲気が好きすぎて、片付けが全く苦じゃないそうです。

窓越しに見える個室は、まるでオシャレな古着屋さん。

高野さんご夫婦が建築家の高橋正彦さんにお願いしたのは「写真スタジオのある家」。
お互いを尊敬、信頼しているクリエーター三人がつくる住まいは、のびのびとした空気感に包まれていました。


ご夫婦の人柄を表したかのような、大らかな住まい


ドアを開けると、抜けの良い空間が目の前に広がります。扉や壁がほとんどなく、どこにいても光や風、家族の気配が感じられる住まいです。デザイナーのご主人と、フォトグラファーのさやかさん、小学生のお子さんの三人で暮らしています。

間取りは、ダイニングキッチンとリビング兼寝室、個室、水まわりがひと続きになったワンルーム。青のアクセントウォールが彩りを添えています。

からの空間を愛でたい」というさやかさんのこだわりで、あまりものが置いてありませんが、個室だけは洋服やおもちゃ、趣味のものがぎゅっと集まっています。まるで、セレクトショップのような雰囲気で、お二人のセンスの良さが感じられます。

この家はまさに高野さんご夫婦そのもの。来る人全てを受け入れてくれる、大らかな住まいです。


【リノベ前①|窓側からキッチン側を見る】キッチン手前の空間は、壁とドアで分断されて右の部屋は完全な個室。奥に見えるキッチンも大きな引き戸で遮られ、別の空間に見える。キッチン右側の部屋に至っては完全に窓側からは見えない状態。

【リノベ後①|窓側からキッチン側を見る】青のアクセントウォールや大きな造作のダイニングテーブルが印象的。間仕切り部分に窓をつけたことにより、暗かった部屋にも採光が行きわたり、明るく爽やかなワンルーム的空間へシフト。

「聞かなかったら後悔する」 ご主人の強い思いがつなげたご縁


高野さんご夫婦が家づくりをはじめたのは、9年前 (2015年)。お子さんの成長とともに住まいが手狭になり、中古マンションを購入してリノベーションしようと思ったのがきっかけでした。何軒も内覧する中で、雰囲気や古いけれど手入れが行き届いているところが気に入り、このマンションに決めました。

物件探しと同時期、二人の大好きなアパレルショップ「SUNSHINE+CLOUD」が葉山に移転。新店舗は、まさに自分たちが思い描いていた理想の空間だったと話します。誰が設計したのか気になったご主人が調べたところ、佐賀高橋設計室の高橋正彦さんに辿りつきました。

さやかさんは予算が少ないから受けてもらえるはずがないと諦めていましたが、ご主人は「聞いてダメなら諦めもつくけど、聞かなかったら一生後悔する」と高橋さんに連絡したそうです。

「実際のところ予算はとても厳しいものでした。けれども、僕のつくる家を好きだと言ってくれる人となら、一緒に家づくりをしたいと思ったんです」と高橋さん。

「建築家さんは敷居が高く、私たちじゃ相手にされないと思っていました。けれど、勇気を出して声をかけてみれば、応えてくれる方がいるんだなと。今となっては高橋さんに連絡してくれたドリーミーな彼に感謝ですね」とさやかさんが笑いながら話します。

依頼のきっかけとなった店舗「sunshine+cloud」内装。
葉山の一色海岸近くにあるSHOPで、有名な老舗和菓子屋の保養所を店舗として改修した空間。元からある場の雰囲気や景色を生かしながら「気持ちの良い空間」を意識したのだそう。(photo:古谷 昭洋)

高橋さんの設計のコンセプトは「風の向き、光の流れ、周辺の景色等が自然と感じられる、おおらかで気持ちのよい空間」。住まいづくりの一助となったアイテムの1つはハニカムスクリーン。上下2枚の生地の配分で視線をコントロールしながら、外とのつながりを持てるため、部屋をより広く見せられます。

建築家は家をつくるだけでなく、家族をまとめてくれる存在


高野さんご夫婦の住まいづくりは、まず優先順位を決めるところからはじまりました。まだお子さんが小さく、自宅と職場を一体化させたかったさやかさんは、モデル撮影が行えるようにしたいとオーダー。また、広々とした空間が好きな高野さんご夫婦は、壁や扉をできる限りなくして欲しいとリクエストしました。

高橋さんはお二人の要望に応えるべく、天井を現しにしてモデル撮影に必要な高さ2.7mを確保。背景のロール紙をセットできるフックや衣装の収納庫などスタジオとしての機能を備えました。

さらに、壁や扉を無くしつつも、シチュエーションに応じて、部屋を仕切られる可動式の間仕切りを用意。使わないときは戸を隠せるように鮮やかな青のアクセントウォールをしつらえました。

1回目の提案で完成形に近いプランができた一方で、細かい部分でご夫婦の意見が合わず、よく言い争っていたそうです。

「私も夫もこだわりが強くて、よく喧嘩していましたね。揉めるたびに高橋さんになだめてもらっていたので、我が家では『揉めたら高橋さん』(笑)。建築家さんって家をつくるだけでなくて、家族をまとめてくれる役割もあるんですね」

【リノベ前②|キッチン・ダイニングから窓側をみる】それぞれの部屋は壁と扉に区切られ、個室感有り。窓からの採光は、キッチン側や左の個室までほぼ届いていない状態でした。

【リノベ後②|キッチン・ダイニングから窓側をみる】左の部屋には木製サッシの内窓がつき、窓向こうの部屋とのつながりが生まれることでより空間が広く見えます。個室としても仕切れるよう、ロールスクリーンがついています。大きなダイニングテーブルも全く窮屈さを感じさせません。

4年後、再集結。今度は理想のスタジオづくり


4年後、人気フォトグラファーになったさやかさんは、近所に本格的なスタジオを構えることを決意。再び、高橋さんとのものづくりがスタートします。

 

「家をつくっていただいたときに、何一つ不満がなかったし、あり得ない予算でつくっていただいたので、いつか恩返しがしたいなと。あの家がなかったら今の私はありません。だから、スタジオの設計をお願いするなら高橋さんしかいないと思っていました」

 

スタジオのコンセプトは「白夜と灯台」。大好きなアーティストのライブの帰りにインスピレーションが湧き、高橋さんにすぐさまメールを送ったといいます。真っ白なスタジオは白夜を、400着以上のアンティーク着物がある色鮮やかな衣装室は灯台の小屋をイメージ。一歩足を踏み入れた途端、幻想的な世界に一気に惹き込まれます。

 

 高橋さんとつくりあげたスタジオは、一緒に働く仲間とお客様の笑顔でいつも溢れています。

【白夜がコンセプト:子どもたちのメモリアルフォトスタジオ】
異物感のあった黒いサッシの窓には、白いブラインドを設置し印象的な白の空間を実現。

【灯台の小屋がコンセプト:スタジオの事務所 兼 衣裳部屋】
いつか自分のスタジオを持ちたいと、コツコツと集めた大好きなアンティーク着物に囲まれた事務所スペース。

金額よりも「誰と買うか、誰と一緒につくるか」が大切


自邸マンションの空間の主役でもあり、いつも暮らしの中心にあるダイニングテーブル。新潟県の木工作家に依頼し造作しました。食事はもちろん、仕事や勉強、団らんなど、家族が自然と集まる場所です。オリジナルなので値が張りますが、高橋さんは「高野邸の中心にあったら良いな」と感じ、提案したそうです。厳しい予算の中で、かなりのウエイトを占めていたものの、高野さんご夫婦は絶対に削らないと決めていたといいます。「高橋さんが提案してくれたものは間違いないですから。ベストパフォーマンスをしてもらえるためにも絶対に残そうと思っていました」とさやかさん。

「予算も限られているし、できないことも多い中で引き受けてくれたのだから、高橋さんには自由に作品づくりをしてもらいたかったんです。実際、暮らしてみるとダイニングテーブルは僕たちの暮らしにはなくてはならない存在になりました」とご主人も続きます。

白夜と灯台の写真スタジオも、当初の予算は1,000万円でしたが、材料費や工事費の高騰により最終的に1,700万円まで膨れ上がってしまいました。

「色々と厳しかったのですが、もうやるしかないと。何を買うかではなくて、誰から買うか、誰とつくるかが大事だと思い、お金を集めました」とさやかさん。

「提案したときにこちらの感覚を理解し、自由にやらせてくれるので、とてもやりやすかったです。お二人との打合せは毎回楽しくて仕方がない」と高橋さんも嬉しそうに話します。


「次は長野あたりでカフェをつくりたいんですよね」とさやかさん。高野さんご夫婦と高橋さんの物語はまだまだ続きます。

写真左:建築家・高橋正彦さん
写真右:高野ご夫妻(施主様)

リノベ前のマンションで、設計プランを熟考。間取りを測って、イメージを絵に起こして、納得いくまで向き合ってくれるのが髙橋さん流。

Q&A

Q1:家の中で気に入っているアイテムを教えてください。

さやかさん:ニチベイのハニカムスクリーンですね。サッシは改修ができなかったため、冬になると窓辺が寒かったんです。ハニカムスクリーンをつけてから、窓の近くにいても冷気が気にならなくなりました。

Q2:家の中で自慢の場所を教えてください。

ご主人:テーブルですね。この家は音がバウンズするので、ギターを弾くと心地よいんですよ。ここは僕のグリーンステージです。

Q3:打合せ中に印象に残っていることはありますか?

ご主人:打合せで憧れの『SUNSHINE+CLOUD』の2階(以前高橋さんの事務所があった場所。)に入れたことです。ふだんは入れないので特別感が味わえましたね。

Q4:暮らす上で何かこだわっていることはありますか?

さやかさん:ものをあまり持たないことです。子どもに『津波に全部流されるかもしれないけれど、それでも持っていたい?』って感じで聞いています(笑)。そうすると、本当に必要なものの優先順位が見えてくるんです。

Q5:お好きな家電を教えてください。

さやかさん:ルンバです!呼んだら来てくれるんですよ。1番素直で、1番働いてくれる我が家の自慢の末っ子です(笑)

編集後記

撮影の間もずっと楽しそうに談笑されていた高野さんご夫婦と高橋さん。まさしく施主と建築家の理想の関係だなと感じました。さやかさんがまた新しいプロジェクトを考えているとのこと。三人の3回目のものづくりがはじまるのを今から楽しみにしています。(ライター:橋口)

高野さんは「高橋さんに自由につくって欲しい」。高橋さんは「高野さんが、この家を上手に住みこなしてくれている」。お互いのcreativityに対し、敬意溢れる凛とした一言が印象的に耳に残っています。「信頼して、お任せする」ということが、一見簡単なようで一番難しい。でもこれが如何に大事なことか・・と、ひしと感じた家づくりでした。高野様、高橋様、ありがとうございました。(編集:森本)

カメラマン:大崎 晶子(sunshine+cloudの内装、リフォーム前の写真以外)

このマンションリノベに使われた素敵な一品

評価の高い製品カタログに掲載中の一品