プロの住宅レシピ 徹底的にこだわる、家族の自然体を追求した住まい

この住まいのリビングは、1つの空間の中に開放感があり風景を楽しめる「広がりのある場所」と、ひっそりと一人の時間を楽しめる「籠り感のある場所」の相反する要素を混在させることで、家族それぞれが同じ空間で多様な過ごし方ができるように設計しています。
リビングには、各住戸を斜めにずらして配置する「雁行配置」という方法を採用しています。
例えば、四角い箱のような空間では、横の距離よりも斜めの距離が長くなります。この斜めのラインを活かして、目線を遠くへ運ぶことで、実際以上の広がりを感じます。この住まいでは、リビングの入り口から対角線上の一番奥にまで目線を届けることで、奥の空間まで広い印象を受けますが、実際には奥に設けた小さな空間は、印象よりもずっとコンパクトです。この印象のギャップと意外性に楽しさも感じます。
小さな空間にはヘムロックという木材を使用し、空間の密度を高めるデザインに仕上げました。南側にあたる窓では、外に建てた倉庫の配置を活かすことで日陰を作りだし、住まいの中を涼しくします。窓から入り吹き抜けへと抜ける風は、とても心地が良いです。
さらに、壁には土を練り込み、床には「土塗り床」と呼ばれる土とモルタルを混ぜた仕上げを採用することで、調湿性や蓄熱性がアップし、室内環境を快適に保ちます。
このように「空間は空間」「素材は素材」と切り離して考えるのではなく、生活に溶け込む形で一体化させることを大切にしました。
そして、家具の選び方や配置も、空間設計において重要です。
ご家族の体格、距離感、座ったときの向き、視線の先などを考慮し、家具の配置を考え、空間の設計を行います。そうすることで、出来上がった箱の中に家具や生活を押し付けることなく、そのご家族に合った豊かな住まいになります。
便利さや最先端の技術に頼ることなく、素材の特性を活かした手仕事の豊かさを追求したこの住まいは、家族が自然体で過ごせる空間となります。
Photo : 奥山 淳