プロの住宅レシピ 重ねられた時間をほどいて、光と風の通る暮らしへ

罍 彩子・髙原 真央
築70年のRC造長屋をリノベーションしたこの住まいは、団地と街が出会う場所――南東角の、人通りの多い通りに面しています。
かつて庭だった南側は、住まい手の工夫と共に増改築が重ねられ、風景は少しずつ複雑に、空間は次第に閉ざされていきました。今回の改修では、その増築部分をあえて取り払い、吹き抜けのある明るく開かれた空間へと再構築。2階の大きな開口からやわらかな光が降り注ぎ、かつての庭の記憶が、光と空気の流れとしてよみがえります。
仕上げや間仕切りをそぎ落としたミニマルな空間には、光の揺らぎや温熱の違い、大きなテーブルなど、暮らしのシーンを自在に描ける余白が散りばめられています。さらに東側の減築で生まれた外構のゆとりや、窓越しに続く長屋のリズムが、団地にもう一度、やさしい奥行きを与えています。夜には2階の窓から灯りがこぼれ、街にそっと、あたたかな記憶を灯します。