プロの住宅レシピ 記憶も想いもバトンのように。 「戻す・活かす・補う」で繋ぐ家。

明野設計室
明野岳司・明野美佐子

食堂とドアが仕切られていて、子育て世代のご家族には閉鎖感が強かったため、壁を抜いたオープンな居間空間に。

右側の濃い木の壁は、ラワンのドイツ下見張り。元々あった既存の壁の、懐かしい想いも経年変化もそのまま活かしている。

元々の扉はそのままに、温かみのある色合いのタイルなど、既存のデザインに馴染むものを選ぶ

スキップフロアで気分が切り替わるようにゾーニングされ、斜めに配置したリビングからダイニングへ視線が伸びていく

以前はお茶室だった場所を「リーディングヌック」と名付けて、沢山の本に囲まれたおこもり部屋に。

こちらのリノベーション事例は、最初は新築として検討されていたもの。

「建て替えるつもりで中古の一戸建てを購入したのですが、どうしても壊す気になれません。どうしたらいいかアドバイスをいただけませんか?」というご相談を受け、オーナーさんと一緒に現地へ。そこで私たちもオーナーさんのお気持ちを一瞬で理解しました。

建物は築40年を越える木造2階建て。板張りの壁も年月を経て味わい深くなり、壊してしまうのは惜しい!という感覚を自然と共有できたのです。実はこの建物は建築家の手によるもので、当時の住宅雑誌にも掲載されていたことがわかり、モダンなデザインや間取りに納得。売り主は当初の施主の娘さんでしたが、ご両親から愛着のあるご実家を譲り受け、シェアハウスなどとして残すことも考えたものの、さまざまな事情で手放すことになったといいます。

新たなオーナーさんにとっても、売り主である娘さんにとっても、建て替えではなくリノベーションという選択がベスト。そこで、途中の増改築によって違反建築となってしまった部分を元に戻し、現状では足りない耐震性や断熱性をしっかり補ったうえで、既存の建物のよさをできるだけ活かすリノベーションを目指すことになりました。

間取りはほぼ変えず、すり減っていた階段の踏み板も、室内の建具もそのまま再利用。深い色合いに変化していた板張りの壁は一度はずし、断熱補強が必要な外壁に面した壁のみ石膏ボードに貼替えました。
オーナーさんにとっては、元の建物の魅力が伝わる新居が完成。売り主さんにとっては、家族の思い出が詰まったお住まいの断片を残すことができました。

この事例を通して改めて考えたのは、リフォームとリノベーションの違いです。リフォームは「古くなったものを新しく取り替えること」。一方でリノベーションは「必要に応じて竣工当時の状態に戻し、不足しているものを補いながら、その建物が持つポテンシャルを目いっぱい生かすこと」。その家が引き継いできた記憶や歴史を大切に残していくことが、リノベーションの本質なのではと思います。

シェアする

採用されている製品

明野設計室
明野岳司・明野美佐子

他の家づくりのアイデア

プロの住宅レシピ カテゴリ