プロの住宅レシピ 家族が自然と集まる、母のための終の住処

村西 弘至
70代のお母様が暮らす住まいとして建て替えられたこの家は、「終の住処として快適に過ごせること」「近くに住む子どもやお孫さんたちが自然と集まれること」を大切に計画しました。
以前の住まいは、子育て期に合わせた間取りで、部屋が細かく区切られていたため、家族の皆がゆったりと集まれる場所もなく、また採光の問題もありました。
そこで新しい住まいでは、暮らしの中心に大きなリビングを設け、開放感のある住まいとしました。
床の一部には畳コーナーを設け、床に座ってくつろげる心地よさも大切にしています。さらに、リビングは外のデッキへと緩やかにつながっており、庭に向かって約2.5メートル張り出した広いデッキ空間と約1.5メートルの奥行きを有する深い軒が、屋内と屋外に一体感をもたらします。夏にはデッキにプールを広げて遊んだり、自由に走り回ったりと、お孫さんたちが集まり、賑やかな時間が流れます。
この一体感をより豊かにしているのが、勾配天井の設計です。低いところで約2.1メートル、高いところでは約3.6メートルの勾配をつけたことで、光の入り方にも変化が生まれ、様々な質感の居場所が生まれます。
開口部では、空間が区切られないよう、木の柱で窓の框(かまち)を隠し、床を一段下げ、上部を段上げすることで、窓を開けていても閉めていても、空間の見え方が変わりません。常に視線の抜けが保たれ、より大きな開放感が生まれます。
性能面や快適性も確保するため、断熱性を高め、床暖房を取り入れたことで、天井が高くても快適に過ごせています。
家族が自然と集い、賑わいと静けさが共存する住まいは、世代を超えた暮らしを優しく包んでくれる住まいです。
Photo : スペースクリップ/岡田大次郎