プロの住宅レシピ 傾斜地を魅力に変えた、スキップフロアの住まい

鎌田 賢太郎
この敷地は、約10メートルの高低差をもつ傾斜地。造成による整地は不可能な斜面のため、その地形を活かすことを選びました。
斜面に合わせた「スキップフロア」を採用し、段差を活かして高低差を住まいの魅力へ。
約30度の急傾斜を逆手に、自然を取り込む設計とし、「傾斜を魅力に変え、自然と共生する住まい」という想いから生まれた建築です。
段差によって空間を緩やかに分けながらも、ひと続きの広がりを感じさせるスキップフロアの設計。床の高さを少しずつ変えることで、視線や光にリズムが生まれ、開放感と奥行きのある空間が広がります。リビングから続く半屋外のデッキでは、空と緑を眺めながら四季の移ろいを楽しむことができ、吹抜けと高低差が空間に一体感をもたらします。スキップフロアは狭小地に限らず、広い敷地で間延びしてしまう空間にも効果的です。
この住まいのもうひとつのテーマは「さび」。
時を重ねた素材の表情を、デザイン要素に取り入れています。
玄関扉には、「黒錆のコールテン鋼」を貼り、床には南佐久で採れる赤や黄の独特な錆色の「佐久鉄平石」を張り、どちらも経年美で味わいの増す素材を採用しています。柱には、檜の丸太を山に放置して天然の黒カビをまとわせた「錆丸太」を採用。これは茶室などの数寄屋建築で用いられる素材で、和の趣と天然の力強さを感じます。
アンティークに深い見識を持ち、時を経たものへの価値を大切にする建築主の想いから、経年美を宿す素材を選びました。
高低差のある敷地や変形地、そして「さび」。不利に思える条件を、視点を変えることで土地や素材の個性を魅力に変えた住まいです。