プロの住宅レシピ 風景と呼応し、素材と暮らす──自然にひらかれた健やかな日常のかたち

井上久実設計室
井上久実

斜めにカットされた切妻屋根が海と山の風景に穏やかに呼応する。 心と身体の健康を軸に据えた住まいが夕景にあたたかな光をにじませて佇む。

天井高3.5mの廊下の突き当たりに、壁ではなくガラスの開口を設ける。 視線の抜けと緑の借景が空間に豊な広がりを与え、光と奥行きを深めていく。

造作キッチンは奥様が家族の様子を見ながら過ごせるよう設計。 ラワン合板の棚が素朴な素材感を添え、窓からは緑と海の景色を一望できる。

本棚を組み合わせた畳スペースは家族が集まる場として設けられた居場所。 寝転べる小上がりには、寛ぎのひとときと団欒が自然と生まれる。

焼杉板

外壁を包むのは焼き目をほどよく落とした木肌が際立つ焼杉の板。無着色で仕上げることで、素材本来の質感を活かしつつ、経年とともにやわらかくグレーに変化していく。

淡路島の海と山に囲まれた敷地に建つ、5人家族のための住まい。
お施主さんは健康意識の高い方で、ご要望は健康な住宅であることでした。
素材から設備に至るまで丁寧に選び抜かれ、周囲の豊かな環境を住まいの中にも自然に取り込んでいます。

この住宅の中心にあるのは、床下換気システムによって整えられた空気の質。
室内にきれいな空気を送り込み、湿気や汚れた空気は下から抜く構成で、澄んだ空気が保たれた快適な住環境を実現しています。素材には無垢材や土佐和紙、珪藻土を用い、すべての部屋から海を望む開口部も設けられています。

設計全体では空間の連続性と開放性を重視。部屋に扉を設けず、子ども部屋もL字型のパーテーションで緩やかに仕切ることで、互いの気配を感じつつ程よい距離感を保てる構成です。
洗濯室から直接屋外に出られる動線や大容量の収納も備え、実用性と回遊性も確保されています。

特筆すべきは天井高3.5mの廊下の突き当たり。壁の代わりにガラス面にすることで視線の抜けをつくり、季節ごとに表情を変える緑を取り込んでいます。空間の緊張をやわらげ、呼吸のようなリズムが生まれることで自然との対話を象徴する場所となっています。

照明はあえて多めに配置し、時間帯や用途に応じて点灯範囲を調整できる設計に。
スイッチ経路も細かく分けられ、暮らしの変化に寄り添う光環境が整えられました。

設計の根幹には「時間の経過が美しさになる素材選び」と「環境との呼応」があります。日々の暮らしが積み重なることで、風景と家が共に変化し、ひとつの調和をかたちづくっていく──そんな在り方が丁寧に編まれている住宅です。

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採用されている製品

焼杉|共栄木材
株式会社 共栄木材
井上久実設計室
井上久実
ここが私の評価ポイント!
外壁には、共栄木材の焼杉「美杉」を採用。
厚み15mmの無着色材は、素地のままでも力強い木目と落ち着いた風合いが魅力。焼き目をハケでブラッシングして仕上げることで木肌の質感が際立ち、落ち着いた表情を生み出しています。
紫外線や雨の影響による色の変化が大きいのが特徴で、経年とともにやわらかくグレーに変化します。
コストバランスにも優れ、安価ながら品質が高く、厚みがあるため反りも出にくいため設計上も安心して採用できた素材。
以前から取引のある信頼できる製材所で、「困ったことがあれば何でも言ってくれ」と言ってくれる社長との距離感も心強いです。
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井上久実設計室
井上久実

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