プロの住宅レシピ 「桜と暮らす」窓が切り取る四季の風景

築50年の企画住宅は、土地の良さが十分に生かされず、ただ土地の上に置かれただけのような住まいでした。
この場所を選んだ決め手は、隣接する公民館の駐車場に咲く一本の大きな桜でした。今回のリノベーションでは、桜をはじめとする周囲の環境をどう暮らしに結びつけるかを重視しています。
わずかな期間しか見られない桜の美しさを、暮らしの中で最大限楽しめるように、リビングやキッチン、そして二階の窓を計画。二階の窓は腰壁の高さを低く抑えたことで、床に座ったまま桜を楽しめるようになっています。桜が敷地より3メートル低い位置に咲いているため、一般的な「見上げる」お花見ではなく、花と同じ高さで楽しめます。一階のリビングダイニングも同様に、目線の高さで桜が広がります。キッチンでは、あえて天井いっぱいの窓にせず、大きな幹と花を絵画のように切り取るデザインとしました。
冬になれば葉が落ち、遠くの空港まで見渡せ、飛行機の離着陸を眺められるのもこの土地ならではの魅力です。「50年目にして、ようやく家から桜が見えるようになった」と言えるほど、大きな変化でした。
以前の住まいはLDKが真西を向き、細かく間仕切りされた家は全体が暗い印象でした。新しい住まいでは空間をワンルームで構成し、朝日から夕日まで時間ごとに移ろう光を感じられる住まいに。
さらに太陽光や風といった自然エネルギーを最大限に活用し、機械設備に頼らず快適な環境を実現する「パッシブデザイン」の考え方も取り入れています。リノベーションにはどうしても予算の制約がありますが、建築だけで完結させるのではなく、生活の工夫を掛け合わせることで住まいの質を高めています。そのため、あえて余白を残し、暮らしの中で工夫できる余地を設けました。
自邸のリノベーションを通した実践的な検証は、新築を含む他のプロジェクトにも活かされています。想定や理論ではなく、実際の暮らしを通して得た経験をお客様に伝えられること。それこそが、何より大きな財産となっています。