プロの住宅レシピ 庭をもつススメ、「余白」がつくる豊かさ

住まいにおいて「庭」は、単なる外部空間ではなく、暮らしを深めるための余白のような存在です。
ジグソーパズルのピースが組み合わさってひとつの作品になるように、建物と庭、背景の景色が重なり合うことで、住まいはより立体的で豊かなものになります。住まいを閉じた箱のように完結させるのではなく、庭という余白を介して風や光を取り込み、視線の抜けを生むことで、暮らしの質は大きく変わります。
「庭をつくる」には広い敷地が必要だと思うかもしれません。しかし、たとえ一坪に木を一本植えるだけの庭をもつだけでも住まいの空気が変わります。
例えば、都市の密集地に建つ間口7.5m・奥行25mのうなぎの寝床といわれる縦長の敷地では、八畳ほどの中庭を家の中心に据えた住まいづくりをしました。(写真1~3)
本来なら八畳の部屋をひとつ増やすことも考えられますが、あえて一部屋分の面積を削り余白を庭としたことで、庭がハブとなり、住まい全体がつながり、風や光が行き渡ります。サッシをしまい込めば、リビングから和室までが庭を介してひとつの大きな空間に。「何畳」とは数えられないノンスケールに開放感が生まれます。
一方、広い敷地の住まいでは、門から玄関に至るアプローチ全体を「庭」として計画しました。(写真4・5)
直線的に玄関へ進むのではなく、石垣を回り込み、小さな築山を迂回しながら玄関へと向かうデザインにしたことで、視線の角度が変わり、季節の木々や自然石の表情を楽しむことができます。山取りの樹木を取り入れ、枝ぶりの力強さや光を求めて伸びる姿を活かすことで、庭に躍動感が生まれました。(写真1・2)
そこには日本の情緒が宿り、日常の中でふと自然を思い出させてくれます。
大小に関わらず、庭をもつという選択は、暮らしに余白を生み、日常に彩りを与えてくれます。
大切なのは「庭をもつ」ことを諦めないこと。たとえ小さな余白でも、空を切り取り、光や風や緑を取り込むことで、暮らしはぐんと豊かになります。庭は余白であると同時に、住まいを支える大切な要素のひとつです。