廻間町の家

作品紹介

市街化調整区域において、建物を建てること自体を制限するよりむしろ用途を超えて地域の農家を巻き込みながら建つ方が無秩序な市街化を抑制することができると考えている。
これは農村地域に建つ農家のための平屋の家。
単に一戸建ての住宅を建てるというよりは農用地に囲まれるこの敷地に建築することで同時にこの辺一帯の農家のための架構となることを目指した。




[指定建蔽率40%以上]
計画地はすぐ近くに山を望み目の前に川が流れる自然豊かな地域で、隣地に建つ母屋を除いて周囲に建つ建物はほとんど無く、一つ一つの敷地が大きな農村地域である。
市の開発許可基準により建築基準法で定められている指定建蔽率(60%以下)の他に「40%以上」の建蔽率を確保することが求められた。つまり、クライアントが求めるボリュームよりも圧倒的に大規模な計画をしないことにはここに建築が建つための許可が下りないのである。限られた予算内で40%以上の建築面積を確保するために、いかにコストを抑えながら「建築面積を稼ぎ」大規模な計画をしながら「市街化を抑制する」その方法を考えた。


[農作業のための架構と住空間]
単に40%以上の建蔽率を確保して計画すること自体は容易だが、それを予算内で実現させる必要があるため、できるだけフットプリントを抑えながら四方に跳ね出す大屋根をつくることで建築面積を確保した。
構造耐力上必要な壁量は建物中心部でコンパクトにまとめることで外周部はできるだけフリーとし、周囲の畑からもアクセスがしやすい計画とした。中心でひだ状に並ぶ耐力壁は作物の区分けや道具入れとして機能し、住空間としては本を読みくつろぐスペースや物入れなど多様に振る舞う。



[斜材ロッドで山の稜線をつなげる]
周囲の山から川へと連なる稜線をつくるような軒の形状を目指し、自然豊かな山を望む東側は軒を高く、夏の日射を抑制するため南側は軒を低くと周囲の環境に応じて各軒の高さを決定することで環境に溶け込む緩やかな双曲放物面(hyperbolic paraboloid)を木の直線材のみを使用して形成した。軒は4周跳ね出すため先端は2方向片持ちとなるが鉄骨部材の斜材ロッドにより先端を支えることで梁を段違いとすることなく天端を全て揃えることが可能となり、軒の厚みを抑えた緩やかな稜線形状をつくることができた。



[無秩序な市街化の抑制]
このおよそ100坪の面積をもつ架構のもと必要な場を内部化することで、農作業をするための大きな架構と住むために必要な住空間の間取りを同時に行おうと考えた。
敷地内残りのスペースは引き続き農用地として作物が育てられ、軒の深さによって住空間との連続性を生み、深い奥行をもつ軒下空間は周辺農家の他の畑からもアクセス可能な収穫物の乾燥場としても機能する。
いずれは面積のバランスを変え大きな農作業小屋となり、さらには架構だけが残り続け周囲の農用地に寄与する屋外空間となる。これから時間を掛けて地域へ根を張り、この架構によって市街化が抑制され貴重な農用地が守られることを期待している。

 

PHOTO: 植村崇史

作品データ

所在地: 愛知県

延床面積: 183.95㎡

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