旭ケ丘の家

作品紹介

[土地の資産価値を高める]
クライアントのそのひと言で、ここに建築が建つための方法はいくつかに絞られたのだが、これを実現するには、敷地環境や法規的制限、施工方法を総合的にみた「場所に対する合理的な建ち方」が必要である
これは前面道路から東側の池に向かって4m程下がっていく傾斜地に建つ個人の住宅。
こういった傾斜地の場合、上からの土圧に耐えかつ防水上の納まりを考慮した半地下のRC造の躯体を計画するのが一般解と言える。
ところがこの敷地の場合、都市計画法により行政から建物の構造に関する指導があり「将来的に除却可能な構造」とすることが条件となった。
そこで今回は、幅員4mの前面道路から作業可能な奥行5mまでの範囲に建物を着地させ、道路レベルから下がることなく幅15mの住空間そのものが片持ちで跳ね出していく建ち方を「木造」で目指すことにした。



[傾斜に制限されない基礎形式]
敷地の大半が市の定める都市計画道路区域内であるため都市計画法第53条1項に基づく許可を受ける必要があり「将来的に除却可能な構造」であることが条件であるため、区域外の周囲の建ち方と同様にRC造の躯体を設けることができない。
また主体構造の制限に加え、地階を設けることも認められないためこの傾斜地の場合基礎高を抑えることが必要となり、より合理的な基礎形式とすることが求められた。


敷地は113坪と広く本来であれば重機や作業エリアは十分にあるが傾斜の下の遊歩道からアプローチすることは難しく、反対に傾斜を道路から下ることができる重機も限られている。膨大な仮設工事費が嵩むことを避けるために今回は重機は敷地内には立ち入らない方針とし、重機が傾斜を下がることなく全ての工程を道路側から施工するために前面道路からアームを操作しやすい5mまでの範囲に錘として必要なコンクリート量で基礎スラブを敷き、H鋼とC鋼で組んだ鉄骨トラス梁を立ち上げた。これによりスラブからさらに5m浮いて跳ね出す形式が可能となり、傾斜に制限されることなく木造の躯体を組んでいく計画とした。



[重心を設計する]
幅15mのボリュームが5m浮いて跳ね出すために必要な重量をコンクリートの錘で確保し、住宅に必要なプログラム、設備機器を全て道路側へまとめた平面計画とすることで建物全体の重心バランスを道路側へ寄せることを意識している。
そうすることで設備配管も全て道路付近で完結し、ポンプアップ設備の必要もなくコストを抑えることが可能となり平屋でありながらこの眺望を手に入れることができた。
この「重心を設計すること」が結果として設備配管をコンパクトに納め、平坦な土地と変わらない施工方法は同様の傾斜地への示唆となり、この基礎が在ることで今後容易にこの場所で建築が建ち替わることが可能となった。
将来、都市計画法により建物の除却が求められた場合でも道路側から傾斜を下ることなく逆の手順で解体することが可能であり、鉄骨トラスは解体のための足場となる。
フットプリントを抑え元の土地をほぼそのまま残すことができるこの「基礎形式」こそ、この場所に対する合理性である。

 

PHOTO: 植村崇史

作品データ

所在地: 愛知県

延床面積: 122.6㎡

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