丁子田の家

作品紹介

どんな住宅をつくるときでも少し先を見据えた計画をすることはよくあるが、それが「将来どう残すか」となると見えない先を受け入れる「構え」が必要である。
これは夫婦2人で暮らすための「大きく構えた」小さな平屋の家。
造成地特有の地の利を活かしてフットプリントを抑えながら敷地全体に伸びる「3枚の壁」を並べ、そこに現時点で最低限必要な住空間が取り付くことでコストを抑えながら大きな敷地全体を有効に利用しようと考えた。



計画地は東垂れの傾斜地で、敷地を上段と下段に分けるように擁壁による「宅地造成」が行われいくつもの敷地が一定の間隔で並ぶ新興住宅地である。
そのうちの2筆をまとめて利用し夫婦2人で暮らすためのコンパクトな平屋の住宅をつくり、いずれ息子へ受け継ぐための普遍的な計画が求められた。
将来的な計画がどのような家族構成でどれ程の規模を想定するのか、あるいは住むための「住宅」であるかも現時点では決めることができない。それであれば受け継ぐのは「住宅」ではなく、敷地全体を満遍なく利用するための「構え」を残すのはどうだろうか。
こういった造成地の場合、下段は必然的に駐車スペースで残りの上段のみで住むための面積を確保することになり、使うことができる敷地面積に限りができてしまう。
そこで今回は2筆の敷地全体に単一方向の構造耐力を100%担う壁を3枚だけ並べることとした。この壁に2人で暮らすために必要な分のボリュームを取り付けることでコンパクトな住空間をつくり、既存の擁壁を超え道路先まで伸びることによって残りの敷地までをも体感的に内部空間へ取り込むことができないかと考えた。この既存の上段と下段に分ける宅地造成によって「3枚の壁」は跳ね出して浮く形式となり、必然的にフットプリントは抑えられ基礎面積が減ることで限られた予算内でうまく敷地全体を利用できるようになる。



内部は最大で9.1m x 7.28mの空間を自由に使うことができ、このスパンを4m程度の流通材のみで構成するために互いに梁を受け合うレシプロカルな梁の掛け方を採用した。この大スパンを2人で暮らすための住空間として家具や収納で仕切ることで将来的にも自由に使おうという計画である。
できるだけ内部に光を取り入れるために目一杯の開口部を設けたが、周囲と同様に傾斜に合わせた東向きに構えることで採光とプライバシー性を同時に確保する建ち方となった。
道路側ファサードで木部材をT型に合成した「T-joint-beam」によって3枚の壁を繋ぐことで単一材では弱軸となる横からの風圧にも抵抗する計画とし、木部材の合成はGIR(グルード・イン・ロッド)接合とすることで金物の露出をせず小断面の梁だけで7.28mを掛け渡すことが可能となった。この「T-joint-beam」を掛ける間隔に少し変化を与えることで道路からの視線を遮りながら遠くまでの景色を望むことができる。その立つ位置や視線の高さによって街や景色の見え方が微妙に変化し、物理的な壁でなく感覚的な距離によって街との繋がりを意識する家となった。

 

PHOTO: 植村崇史

作品データ

所在地: 愛知県

延床面積: 92.04㎡

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