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farm

東京と熊本を拠点とする設計事務所です。

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住所: 熊本県熊本市北区清水本町19-27 201

URL : https://www.farm-aa.com/

作品集

物件

■ 光が丘の建替

敷地は1960年代に宅地開発された郊外住宅地である。
施主は元々あった一軒家を建て替えて、親と子の2世帯のための家を求めた。既存建物の位置、庭と駐車場の位置、和室の位置、部屋数を保ち、かつ既存樹を残すといった多くの条件が求められたことから、既存家屋の文脈を下敷きに設計を進めた。土地や家屋の記憶を引き継ぎながら新しい環境の器を創造するために、住人によって身体化された環境を紐解き、再構築する必要があると考えた。
 

土地に根付いた2本の樹木(梅と夏みかん)はささやかな存在ながらも、かつての家と庭の関係を確かな輪郭として描きだしていた。
部屋から見えた梅の木、春先の黄色く熟した夏みかん、隣家の庭の花や木々など、四季の移ろいを感じさせる豊かな自然は新たな生活を組み立てるきっかけになると考えた。まず、奥まった建物配置に対して、敷地外からの人、物、車を迎え入れる硬い仕上げの石庭と、植物が自生する柔らかい仕上げの草庭という2つの庭を定義した。そして建物と2つの庭、道路を結ぶように大きな東屋のようなポーチを設けた。これを、カーポートが前景化する郊外の街並みに対して、人の居場所のためのガーデンポートと名付けた。ガーデンポートは外部を引き込むように建物を穿ち、そこから建物全体に光や風を導くようにした。
建物の内部ではラワン合板で仕上げられた個室ボリュームの位置をずらし、2つの吹抜やロフトを設けることで、スケールを変えながら建物全体をひとつながりに結ぶ隙間空間をつくった。白塗装された合板で囲われた隙間空間には高さや大きさを調整した開口を配し、場所ごとで明るさの濃淡を生み出すようにした。また、隙間を介して他の部屋や2つの庭、隣家の庭、公園、空へ視線が抜けるようにし、動線の終端が室で終わらずに隙間に開放されるようにした。

 

引き継いだ建ち方、アドホックに分節されたボリューム感など、外観は単純な郊外住宅的なる姿を保ちながら、肥大化したポーチ、個室群に重ね合わさるスケールと肌理が異なる隙間空間は住空間に重層性を与える。そして、それらを介して自己から他者、より遠くの外部へ意識がつながることで、かつての家-外部の関係は個-家族-地域をしなやかに結ぶものに更新される。

 

Photo : JUMPEI SUZUKI

プロの住宅レシピ

プロの住宅レシピ

■ 隙間がつなぐ、三世代の心地よい暮らし

建て替えによって生まれた新しい住まいは、三世代が心地よく暮らすための工夫が詰まっています。
お施主様からの希望のひとつが「かつての家の配置関係をできるだけ残してほしい」というものでした。庭やリビング、和室、キッチンの位置関係を新しい住まいでも引き継ぎ、グループホームで暮らすおばあさまが戻ってきたときにも、身体が覚えている空間のつながりを感じられるよう配慮しています。

玄関先には、柱と屋根だけで構成した東屋のようなスペースを設け、住まいと庭、地域をゆるやかに結びます。
室内は個室を設けながらも、家全体が「隙間」でつながるように設計しています。たとえば、和室には建具のほかに小窓を設け、空気や視線が自然と抜けていきます。室内に点在する「抜け」の空間によって、立ち位置を変えるたびに異なる景色が楽しめ、外の庭や隣家の緑、さらに遠くの公園まで…と、家の中にいながら街とつながる感覚が、身体感覚を外へと広げ、住まい以上の広がりを感じさせてくれます。

三世代がほどよい距離感で毎日の暮らしを楽しめる。記憶を引き継ぎながら家族に寄り添い、丁寧にかたちにした住まいです。
Photo : JUMPEI SUZUKI