作品紹介

「周辺住民を含めた人々の緩やかなコミュニティが形成できるような賃貸物件へ建て替えをしたい」

これがオーナーが想う、この物件に対する目標である。

計画前、この敷地には古い木造2階建ての空き家や入居者がほとんどいないRC造5階建てのワンルームマンションが建っていた。この2つの建物は周辺の建物に比べると大きなボリュームで、草木の管理もあまり行き届いておらず廃墟に近い状態。

そのような経緯もあり、事業性も含めた様々なプランを提案する中で、建築としての新たな可能性を持ちつつも、周辺地域に対する調和と言う点を特に重視する、敷地の中央にアプローチ兼用の庭(以下中庭)を設けた、あえて住戸数を重視しない空間的なゆとりを持たせた小規模の長屋タイプを軸とする方針を定めた。

外観はシンプルで清楚な白い意匠性を基調とし、周辺に建つ住居へ配慮した建物高さ、入居対象の家族構成(=未就学児がいる若い夫婦)を見据えた各住戸のボリューム、道路からセットバックした距離感とゆとりある駐車場スペース、道路側から見たボリュームを抑えるための屋根勾配の向き、一般的な屋根形状の連続性など、地域全体にやさしく溶け込むよう配慮を行った。その上で、中庭空間の視覚的な演出と周囲に対してな解放も視野に入れ、樹種の選定や樹木のレイアウト、将来的なサイズ感、そして外構の意匠性や使用する素材も入念に検討した。

住戸は7つで、中庭を中心に「コの字型」に各住戸を配置するプラン。外壁は単一な素材で構成しているが、「フラットなイメージの外周部」と「凹凸のある中庭側」という2つの表情を持たせ、道路側からは一体感を強調する集合住宅的な意匠性であるものの、入居者に対しては独立した戸建てのような印象を強調するようにした。

また1つの住戸は「居室部分」と「玄関・水廻り部分」の大小1つずつのブロックで構成されており、それが交互に7つ連なり1つの建物を形成している。そのおかげで特に中庭側は、白い外壁に落ちる陰影が建物の立体感を強調しつつも、そよ風に揺れる枝葉の有機的な柔らかさを強く感じ取れる空間となっている。

この建物の意匠性と緑豊かな日々の暮らしが人々の心を少しずつ和らげ、何気ない小さな繋がりが施主の求める緩やかなコミュニティをゆっくりと創り出すきっかけとなっていく。

7つある住戸はそれぞれ「居室部分」と「玄関・水廻り部分」の大小1つずつのブロックで構成されており、それが交互に連なり1つの建物を形成している。そのおかげで特に中庭側は、白い外壁に落ちる陰影や水平目地に生まれた前後の動きが建物の立体感を強調しつつも、そよ風に揺れる枝葉の有機的な柔らかさが心に残る。間取りについては「1階LDKタイプ」と「2階LDKタイプ」の2つを設け、住戸の内と外の距離感を見極めながら、ガラス越しに写る樹木や人の気配を各窓の内側に収めた。

対象層である“未就学児を持つ若い夫婦世帯”含め、入居者は各々の住まいと中庭の距離感を意識し、自分たちの暮らし方を考える。そしてこの空間で生まれる日常的な光景、例えば、ばったり顔を合わせたお隣さんとの会釈から始まり、時には立ち話しをしたり、時には中庭で遊ぶ子どもたちを一緒に見守ったり、緩やかな日々の関係性が1つの集のある暮らしとなっていく。

作品データ

延床面積: 478.52㎡

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