プロの住宅レシピ 廊下をテーブルに、土間をひらいて──港町の大らかなシェアリビング

矢萩智建築設計事務所
矢萩 智

改修前の既存の柱をそのまま脚として利用し、廊下を大胆にテーブルへと転換。構造体を暮らしに寄り添う家具へとつなぎ直すことで、仲間が自然に集う温かな場を生んでいる。

中心に据えた長いテーブルが空間を貫き、柱のリズムと共に居心地の核を形づくる。トタン波板を再利用した照明が机上を照らす。外の街の風景と呼応する光環境が空間の豊かさを一層引き立てている。

自然光を柔らかく反射させ限られた広さに奥行きを演出。用途に合わせた提灯型の照明やダウンライトがやわらかく空間を照らす、伸びやかな共同リビング。

手作りのカウンターを設けた土間空間はキッチンや居間と緩やかにつながる構成。用途の境界を曖昧にすることで会話や視線が交差する豊かなコミュニケーションが育まれる。

玄関に残された段差は座れる場所へと転用され、足元は荷物置きとして機能。外には下田の街並みと海の気配が重なり、暮らしと地域が呼応する風景が広がる。

静岡県下田市の港町に建つ住宅を改修したシェアハウス。 空き家の活用を通じた地域の取り組みの中で、居住者や訪れる人が憩う共同の場として計画されました。

改修の大きな特徴は、廊下を大胆にテーブルへと転用し既存の柱を脚として活かしたこと。
動線上に据えられた長いテーブルは人が集い会話を交わす場となって暮らしの中心をかたちづくっています。 さらにリモートワークやシェアオフィスといった多様な使い方を想定し、テーブルには多めに配線設備が整えられています。

車庫だった場所は土間空間に引き込まれ、段差を活かして高い天井を確保。
玄関の段差もそのまま残し、座れる場所や荷物置き場として新しい役割を持たせています。

家具は既製品を中心にシンプルに揃え、造作でつくり込む部分とバランスをとりながらローコストを実現。余白を残した構成が空間に柔軟さを与えています。

照明計画の注目すべきところは、机上にトタン波板を再利用して設置したこと。
下田の街並みと呼応するラフな素材感が地域の風景を室内に映し込んでいます。

テーブルやカウンターなどを一から造作することは手間もコストも掛かりますが、その場所でしか生まれない価値を育むことに繋がります。
素材を扱う過程が空間の質を高め、体験として価値が日々の暮らしに特別な実感をもたらしているのです。

床材には無垢の木を用いることで、冷たくなりすぎず、自然に温もりを感じられる環境が実現しています。木は太陽の熱を含み、機械的に暖める以上に身体に心地よい温熱感を与えてくれます。
自然素材ならではの質感が、日常の中の安らぎと豊かな居心地をもたらしてくれることをとても大切にしています。

古いものと新しい工夫が心地よく重なり合う場所。時代に沿った利便性と土地に根差した素材感が溶け合い、港町らしい大らかな日常を支える住まいです。

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