プロの住宅レシピ 廊下をテーブルに、土間をひらいて──港町の大らかなシェアリビング

静岡県下田市の港町に建つ住宅を改修したシェアハウス。
空き家の活用を通じた地域の取り組みの中で、居住者や訪れる人が憩う共同の場として計画されました。
改修の大きな特徴は、廊下を大胆にテーブルへと転用し既存の柱を脚として活かしたこと。
動線上に据えられた長いテーブルは人が集い会話を交わす場となって暮らしの中心をかたちづくっています。
さらにリモートワークやシェアオフィスといった多様な使い方を想定し、テーブルには多めに配線設備が整えられています。
車庫だった場所は土間空間に引き込まれ、段差を活かして高い天井を確保。
玄関の段差もそのまま残し、座れる場所や荷物置き場として新しい役割を持たせています。
家具は既製品を中心にシンプルに揃え、造作でつくり込む部分とバランスをとりながらローコストを実現。余白を残した構成が空間に柔軟さを与えています。
照明計画の注目すべきところは、机上にトタン波板を再利用して設置したこと。
下田の街並みと呼応するラフな素材感が地域の風景を室内に映し込んでいます。
テーブルやカウンターなどを一から造作することは手間もコストも掛かりますが、その場所でしか生まれない価値を育むことに繋がります。
素材を扱う過程が空間の質を高め、体験として価値が日々の暮らしに特別な実感をもたらしているのです。
床材には無垢の木を用いることで、冷たくなりすぎず、自然に温もりを感じられる環境が実現しています。木は太陽の熱を含み、機械的に暖める以上に身体に心地よい温熱感を与えてくれます。
自然素材ならではの質感が、日常の中の安らぎと豊かな居心地をもたらしてくれることをとても大切にしています。
古いものと新しい工夫が心地よく重なり合う場所。時代に沿った利便性と土地に根差した素材感が溶け合い、港町らしい大らかな日常を支える住まいです。