プロの住宅レシピ 飛騨の広葉樹が活きる暮らしのアイデア──木のリズムが導く着想

矢萩 智
岐阜県瑞浪市にある蜂蜜カフェ「蜜や」。
ご要望は「飛騨の広葉樹を活かした空間をつくれないか」というものでした。家具用材にするのが難しい曲がり木や端材をチップにせず、素材の個性をデザインに昇華する試みです。
象徴的なのは耳付き板を浮かべた天井。多様な曲線をずらしながら配置することで、木々の豊かな風景を思わせます。同じ木材で仕立てたテーブルや棚が呼応し、空間全体に一体感を与えています。
床はモルタル仕上げとし、カウンターには耐水性のあるモールテックスを採用。山桜の木材と組み合わせることで、木のぬくもりを引き立てながら異素材の調和を生み出します。住宅でも水まわりや造作家具に取り入れれば、デザイン性と機能性を両立できます。
外部には大きく開いた開口と光を透過するポリカーボネート庇を設け、通りに開きながら柔らかな光を取り込み、街との関係性を心地よく築きます。
特筆すべきは細部まで丁寧に作り込まれたトイレ空間。小さな空間だからこそ個性を宿したい──そんな思いも込められ朱里桜の突板が選ばれました。
桂剥きにされた木目は繊細な表情を見せ、天井に仕込まれた光が反射して温もりを増します。ひとつひとつの個室が異なる空気をまとうよう計画され、訪れる人は思いがけず森に包まれるような感覚を味わえます。
住宅においても洗面やトイレといった限られた空間に素材や光の工夫を凝らすことは、日常の中に特別感をもたらすヒントとなります。
木材の表情を際立たせる空間のリズムと調和。それは素材を生かした空間づくりの可能性を広げ、暮らしの場を豊かにしてくれます。