プロの住宅レシピ 連なる暮らしの大回廊──光がめぐり、家族の時間が流れる住まい

イノウエヨシムラスタジオ
井上 亮
床材

壁に設けた室内窓が奥の光を導き空間全体をやわらかく照らす。 天井や樹脂タイルの床とともにホテルライクな空間を構成している。

天板

造作キッチンはマットな質感の面材と人工大理石の天板など素材・色味を空間と調和するように統一して上品な仕上がりに。

廊下の延長にある小上がりの畳スペースは下に収納を設置。キッチンから見通せる計画で、子どもの遊び場にもなるフリースペースとして活躍。

2人用のフィンランドサウナを備えた洗面空間。排水を必要としない木張りのサウナは温度管理もしやすく、洗面と一体で整う時間を過ごせる住まいの癒やしの場所に。

廊下の途中に設けた独立手洗いが動線上の小さな余白をつくる。 空間に広がる光のグラデーションとともに暮らしの流れが穏やかに続く。

都心近郊に建つ築35年の分譲マンションを、6人家族の暮らしに合わせて改修した住まい。

多くの部屋と長い廊下をもつ間取りを暮らしのリズムを感じられる構成へと見直し。SRC構造の大梁が生む高低差をあえて活かし、生活のシーンを数珠つなぎに連続させる“大回廊”として再構成しています。

全体は間仕切りを設けず、4畳半から10畳ほどの小さなエリアをつなげることで、雰囲気の異なる街角のような室内を形成。角部屋の採光を最大限に活かすため、寝室越しに光を通す室内窓を設け、家族の気配が穏やかに行き交う設計としました。

玄関から続く曲がった廊下は、照明とベンチを組み合わせたギャラリーのようなプロローグ。そこから子どもの遊び場や書斎、読書ベンチなど、暮らしの場が自然に立ち現れます。

洗面はあえて廊下に面して配置し、照明とインテリアを兼ねたオープンな設えに。脱衣室を奥に引き込みながら見せる・隠すのバランスを計画しました。

さらにプライベートなラウンジ空間には、お施主さんの希望のフィンランドサウナを設置。在宅時間の増加に合わせたリフレッシュ空間も実現しています。

光のグラデーションと回遊する動線がつくるこの住まいは、機能を超えて“歩くことそのものが心地よい”空間体験へと昇華されています。

Photo:渡邊 聖爾

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採用されている製品

タイル| 株式会社アドヴァングループ
株式会社アドヴァングループ |ADVAN GROUP CO.,LTD.
イノウエヨシムラスタジオ
井上 亮
ここが私の評価ポイント!
床材にはADVAN GROUPの複層ビニル床タイルを採用。
天然石やタイルのような見た目でありながら、柔らかく温かみのある踏み心地が特徴です。
裸足で過ごすことを想定し、硬質な素材では疲労が残ることを考慮して選定。タイルよりも柔らかく、体重の反発を和らげてくれます。子どもが転んでも怪我をしにくく、フローリングよりも安全性が高いです。
目地がないため掃除が容易で水や汚れにも強い点も魅力。さらに近年のプリント技術の進歩により、天然素材に匹敵する質感を実現しています。
ホテルライクな雰囲気を目指した今回の計画では、“家っぽさ”を避けるためフローリングを使わず、木の天井とのバランスを考えて、空間全体を軽やかに見せるグレージュからベージュ系のアースカラーを選択。商業施設でも採用例が多く、コストを抑えつつ高級感を演出できる点も大きいです。
輸入品のため若干価格は上がるものの、原宿ショールームがあることや丁寧な対応をしてもらえるので安心です。
採用製品
床>セラミックタイル・石|ABC商会
株式会社 エービーシー商会/ABC Trading Co., Ltd.
イノウエヨシムラスタジオ
井上 亮
ここが私の評価ポイント!
キッチン天板にはエービーシー商会の人工大理石「コーリアン」を採用。
高い耐熱性と加工性を兼ね備え、デザインの自由度が高い素材です。天然石に比べて軽量で、搬入や施工が容易。継ぎ目の目立たないシームレス仕上げが可能で清掃性にも優れています。さらに発色や模様のバリエーションが豊富で、空間の色調に合わせた柔軟な選択ができる点も魅力です。
天然石は高価で加工や搬入にも手間が掛かる一方、コストを抑えながら石のような高級感を再現できるのが特徴。よく採用しますが、良質な素材を積み重ねても全体の予算バランスを保てる現実的な選択肢です。
今回は家具工房による造作キッチンの天板として使用し、空間全体のトーンに自然に溶け込むよう設計。従来の単調な白い人造大理石のイメージを覆す質感の豊かさで、機能と美観を両立した理想的な天板に仕上がっています。
採用製品
イノウエヨシムラスタジオ
井上 亮

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