プロの住宅レシピ 時を重ねる住まい──建築家の意匠を継ぐ改修

湘南建築工房
高野 淳一

山田先生が残した静けさをそのまま受け継ぐ。暗かった空間はトップライトの導入で明るさが広がり、庭の緑と室内が柔らかく響き合う。

既存のデザインを崩さず、造作家具で生活に合わせて更新。 象徴的な薪ストーブは当時のまま残し、この家の時間の層を示す。

増築を繰り返してきた家の構造を読み解きながら、段差を活かしたゾーニングに再編集。閉鎖的だった一帯は光の入り方を調整し、木壁の温もりと程よい陰影が落ち着いた佇まいを生む。

タイル

料理好きのご主人のために奥のボイラー室を含めて再構成。藍をテーマに選ばれたタイルが空間に深みを与える。既製品は使わず1cm単位で調整した造作キッチンは、機能性と美しさを両立。

海外経験の長い奥さまの嗜好を踏まえ、仕事部屋はスパニッシュ調に。お施主さんのイメージと世界観を重ねた仕上げ。

神奈川県鎌倉市・材木座。歴史ある住宅街に建つこの住まいは、著名な建築家の山田初江先生が手がけた家を、家族の新しい暮らしに合わせて丁寧に受け継いだリノベーションです。

長く地域に根ざしてきた家を壊さず、「山田先生の設計をそのまま未来に繋げたい」という思いが家づくりの出発点となりました。

目指したのは、歴史あるデザインを尊重しながら、現代の生活に必要な明るさと機能を整えること。山田先生の間取りを大きく変えずに、トップライトの追加や仕上げの更新によって光を調整しています。また、鎌倉市の耐震補強にも対応しつつ、限られた予算の中で生活動線を見直す計画が取られました。

特徴的なのが“藍”をテーマとした素材選びです。キッチンや壁面に藍の色を取り入れ、母屋の障子には藍染の和紙を採用。2階寝室は深い青の空間に整え、対となる離れは落ち着いた紅色でまとめられています。

さらに海外経験の長い奥さまの嗜好を反映し仕事部屋はスパニッシュ調に。廊下やサブキッチンにはジェフリー・バワを思わせるラスティックな質感が重ねられました。

キッチンはこの家の大きな改修点のひとつ。かつてボイラー室として使われていた奥のスペースを含め、料理好きのご主人のために広く再構成し1cm単位で調整する造作家具で使いやすさを追求しています。

改修の中心となったキッチンは、かつてボイラー室だった奥のスペースを含めて全面的に再構成。既製品は使わず、1cm単位で調整する造作家具で使いやすさを追求しています。

古くなったコルク床はフローリングへ更新。断熱の全面改修が難しいため、既存の床暖房にエネファームを接続して快適性を補完しています。石油からガスへ変更することで環境負荷を軽減する計画です。そして当時のままの薪ストーブはこの家の時間の層を象徴する存在として残っています。

離れは大正時代の伝統工法による建物で、家族の暮らしに合わせて先に改修。倉庫だった部分に風呂・洗面・トイレを新たに設け生活の基盤を整えています。

残すべきものを見極めながら育てるように手を入れた今回のリノベーション。長い時間が蓄積した静かな佇まいと新しい暮らしの息づかいが、穏やかにひとつに溶け合っています。

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採用されている製品

湘南建築工房
高野 淳一
ここが私の評価ポイント!
キッチンの壁面には、株式会社平田タイルの「Maple Bricks」を採用。
藍を1つのテーマとするこの住まいに寄り添うタイルを選びました。 数ある候補の中で平田タイルを選ぶ理由は、色合いの美しさと、工業製品でありながら一枚ずつ個性があるという独自の素材感です。
平田タイルは微妙な色むらや表情の揺らぎが味。そのため、光の当たり方や時間帯によって見え方が変わり、藍の深みが空間に柔らかな立体感をもたらします。素材が豊かでキッチンのように機能性が求められる場所でも空間の印象を決定づける存在感を持ちます。
一方で、この個性は施工技術を要求する側面もあります。ばらつきや寸法誤差があるため、目地の設計は計画段階から慎重に検討する必要があり、現場おさめには高度な調整力が求められます。 とりわけタイルを切って納めると表情の魅力が失われるため、割付や寸法の精度が非常に重要です。切らずに納めることを前提にレイアウトを組み、職人が一枚ずつ位置を確認しながら貼るというプロセスを経て完成した仕上げです。
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高野 淳一

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