プロの住宅レシピ 空の気配を映すコートハウス──抽象的な構造が導く光の住まい

アーキヴィジョン広谷スタジオ
広谷 純弘

ヒノキの天井の細かな目地が「ひとつの大きな面」のように捉えられ、中央のスリットから落ちる光が空間に行き渡る。床レベルを下げたキッチンは視線を整え、内外に広がる大判タイルが中庭まで連続する構成。

ダイニングテーブルを中心に椅子・小上がり・畳が高さをずらしながら緩やかに連続する茶の間のような空間。南側全面の開口が光を取り込み、板の間・タイル・ウッドデッキへと素材が滑らかに接続。

スリット状のトップライトに組み込まれた繋ぎ材が、二枚の屋根面の揺れを抑えつつ、構造を複雑に見せない高度な納まりを実現。間接照明によって奥行きを増し、夜の静けさに包まれる抽象的な空間を生み出す。

アルポリック屋根が空の色を柔らかく反射しながら中庭を包む。内側の木質空間との対比が強調され、抽象的な外観と温度のある内部の対比が浮かび上がる。床レベルの連続により内部と外部の境界が曖昧に溶け合う。

外部からの視線を遮りながら、抽象性を帯びた大きな外観が街角に端正に佇む。外壁から一枚だけ斜めに切り込むアルポリックの屋根が空を映し、時間帯で色を変える。

東京都練馬区の住宅地に建つご夫婦ふたりのための住まい。敷地は向かい側に中層マンションの廊下が面しており、「外からの視線をどう遮りながら開放的に暮らすか」が出発点となりました。

そして家庭菜園を楽しみたいというご要望もあり、外部環境との距離をいったん断ち切り、内部で光と風を完結させるコートハウスの構成が導かれました。

当初は一般的なLDKを想定していましたが、ヒアリングを重ねる中でご夫婦が「食後はソファではなくダイニング周りで過ごす」生活スタイルを持っていることが見えてきたそうです。

そこで、椅子、小上がり、畳が連なりながら自然にくつろげる「現代の茶の間」へと計画を再構築。キッチンの床レベルを一段下げ、ダイニングと視線の高さを揃えることで、料理と食事がひとつの時間として連続する設計に。

内部の印象を決定づけているのが、節のないヒノキを細かな目地で揃えた天井です。大きな一枚の面のように広がる上部には、北側の柔らかな光を落とすスリット状のトップライトを計画。

構造を見せない高度な納まりによって光が静かに回り、どこにいても穏やかな明るさが漂います。床の大判タイルは中庭へそのまま伸び、玄関の引き込み戸を全開にするとLDK、中庭までが一続きの風景として立ち上がっていくのです。そして和室の障子は揺れを止める独自の吊り構造とし、必要なときだけそっと仕切れる柔らかい境界をつくります。

プライバシーへの配慮としては、駐車場のシャッターを開けると室内が見えやすくなるため、シャッターの動作と連動してロールスクリーンが自動で降りる仕組みを採用。必要なときだけ視線をやわらかく遮り、普段は開放的に暮らせる防備と快適性を両立した計画となっています。

外部は黒い壁と、斜めに差し込む一枚のアルポリック屋根が端正な輪郭を描くように設計。空を映しながら天候によって色を変え、中庭側から見ても重さがなく、光と風を受け止める軽やかな気配が漂います。

日々の動作が自然にほどけ、外が暮らしの延長へと静かにひらけていく。 街からそっと囲いながら、内に入れば光と高さと素材がゆるやかに繋がる住まいです。

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