プロの住宅レシピ 八ヶ岳の稜線を迎える家──森と静けさに寄り添う別荘
八ヶ岳の麓に建つこの住まいは、80代のご夫婦とご子息家族が休暇で訪れるための別荘として計画されました。もともと敷地の奥には旧別荘があったが、老朽化と虫害が進んだことから建て替えを決断されたそうです。跡地は雑木林として再生し、残せる木はそのまま活かしています。
まず前面道路との高低差を解消するため、玄関へはブリッジでアプローチ。雨が流れ、雪が積もっても管理しやすい高床構造とし、基礎はコンクリートでしっかり固めた上にデッキだけを森へ張り出す構成としています。
室内は玄関を入るとすぐにLDKが広がり、左右に寝室を分けたシンプルな間取り。過ごす時間そのものを静かに整えるため、内外装には地元の杉材を多く用い、天井にはヒノキを組み合わせています。白い壁と木の素材が重なり、森に抱かれるような落ち着きが空間全体に行き渡ります。
大きな特徴は、八ヶ岳の稜線を最も美しく切り取るために考え抜かれた開口の計画。視線の抜ける上部に窓を配置し、キッチンや玄関の奥からでも山の気配が感じられるようにしているのです。
八ヶ岳側には道路や別荘があるため、視線を遮りたい高さは閉じ、眺望を得たい位置だけを精確に開く。この構成によって、リビングは外からの視線を遮りながらも山の光が柔らかく落ち、包み込まれたような安心感が生まれます。
テラスデッキはあえて低い目線に設定し、外へ出ると森の中に身を沈めるような感覚が得られます。大開口と連続する構造により、室内に居ても外に居ても光の質が変わらず、季節や時間の移ろいがそのまま暮らしの背景になります。
虫害の経験から、窓は必要以上に開口せず、フィックスを中心に計画。大きな窓でも虫の侵入を抑え、清浄な空気感を保つ住まいとなっています。
ここにあるのは、自然と距離を置くのではなく、距離を整えるための別荘。森の静けさと山の眺めがやわらかく暮らしに寄り添い、訪れる人の時間を穏やかにほどくような住まいとなっています。