プロの住宅レシピ 中庭の光と視線が抜けるLDK──カンディハウスと描く“佇まいとしてのキッチン”
神奈川県横浜市の穏やかな住宅地に建つこの住まいは、夫婦と子どもが暮らす家族のために計画された住宅兼事務所。
求めたのは「本物の木に触れながら、庭に繋がる開放的なLDKで暮らしたい」というものでした。そこでまず素材の質と視線が抜ける構成の両輪を住まいの核として据えることになりました。
中心となるダイニングとキッチンは素材とプロポーションの整え方によって、空間そのものが連続する居場所として立ち上がっています。テーブルやチェア、そしてキッチン本体に至るまで、国産ナラ材やタモ材を使い、素材の表情をそのまま空間に開くことを選んでいます。
これは「触れる場所こそ本物であるべき」という考えの反映でもあり、家具の質を建築の延長線上で扱うためにインテリアのプロと共に検討を重ねた結果でもあります。
特にカンディハウスの造作キッチンはこの家の輪郭を決定づける存在です。一般的なメーカー製が機能を優先するのに対し、同社は木の佇まいを活かし、情緒と意匠のバランスをひとつの面の中に静かに宿らせています。
キッチンを「絵として成立する面」として扱えるのは、素材の選定から造作精度まで確かな技術があるからこそ。「この住宅はカンディハウスと言ってもいい」と語られるほど厚い信頼を寄せており、段取りの正確さや細部の整え方が、空間の質をそのまま底上げしています。
さらに、このLDKの心地よさを決定づけているのが中庭との関係。玄関側から外へひらけ、中庭を通って北側の裏庭へと視線が抜ける構成によって、室内は常に外の気配と共にあります。
対面キッチンにするか壁付けにするか迷った経緯も、この視線の通り道を阻害しないための慎重な検討から生まれました。視線の抜けが大きなキッチンと2mのダイニングテーブルを置いても圧迫感を感じさせず、むしろ外へ向かう奥行きが空間に軽やかさを与えています。
この住まいにはデザインを装飾ではなく生活と素材の連続性として捉える姿勢が静かに流れています。専門家との協働を大切にし、要素と人の感覚を丁寧に扱うからこそ浮かび上がる自然な景色が、この家の日常として成立しているのです。
Photo:加藤悠 (ウェイ)