本町の住宅

作品紹介

敷地は駅からほど近く、周囲を住宅やマンションに囲まれた場所。

ここで求められたのは「明るく、居心地の良い家」だった。東側に公共施設の青空駐車場が広がり、明るさを取り込むには好条件だが、人や車が頻繁に出入りするこの方向に大きな窓を設けるのは、明るさを得ることよりも他に得られないものの方が大きい気がした。光を取り込み、風を通し、室内を開放的にするため、内外の境界として窓が必要になるが、壁を大きくくり抜く窓は、外部環境を享受する代わりに外部にとっても内側の存在をはっきりと認識させてしまうことになる。その結果として都市住宅では昼夜問わずカーテンが閉められ、周囲に閉じているというメッセージを放つことになる。

そこで、この建築では窓の持つオブジェクトとしてのメッセージ性を捨て、生活の背面にそっと佇む”単純機能としての窓”として扱うことで豊かさを作り出せないかと考えた。単体の四角い窓を部屋ごとに点在させるのではなく、建物をぐるりと囲った細長いスリット窓から天井や壁を伝いながら柔らかな光が入って来り、バルコニーの内壁に反射した優しい光が窓を通って室内を包み込む。行き止まりの無い回遊型の平面プランも光や風を建物の奥まで運んでくれる。風景を切り取るなどの美的な性質を持ち合わせていない、通風・採光だけを期待された単純機能の窓だからこそ、カーテンやブラインドを設置しなくても生活出来る。

さらに、この建物では屋根を設けていないバルコニーを縦のヴォイドとして挿入しており、日差しや雨は2階のウッドデッキまで落ちていく。プライバシーの中に外部環境を取り込みつつ、回遊動線の一部として挿入されたバルコニーは、普段は外部であるがフレキシブルに内部へと表情を変える。その表情の変化は点と点を結ぶ線の長さを変え、建物の広さとは異なる生活の拡がりを与えてくれる。

都市住宅として開きすぎないことでプライバシーを確保しながらも、内側からは光・風・空を感じて生活することが出来る「明るく、居心地の良い家」になった。

 

PHOTO:藤井浩司(TOREAL)

作品データ

所在地: 広島県 福山市

土地面積: 109.87㎡

延床面積: 196.76㎡

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