竹林の家 | 里山と竹林に囲まれながら田園風景を見渡す現代の民家

作品紹介

新築

山間の小さな集落を見渡せる山裾の竹林を切り拓いて建てた住宅です。初めてこの地を訪れたときには、鬱蒼と生い茂った竹や雑草であたりは全体に薄暗く、どこが敷地境界なのかも判然としませんでしたが、何度も足を運ぶうちにこの場所の特性が読み取れるようになってきました。竹が揺れる気配から伝わる風の抜け方、少し高台になったこの場所だからこそ得られる眺望、背後に山があることの安心感。兼業で農業を営む住み手とそういった感覚を共有しながら、この場所に建つ現代の民家はどうあるべきかを考えました。

 

<考えたこと>
■ボリュームを分けることで生まれる緩衝地帯と民家のシルエット
まず、いくら切ってもまたすぐに生えてくる竹、背後にそびえる雑木の里山という力強い自然に侵食されない伸びやかな生活の領域を確保するべく、全体をいくつかのボリュームに分け、それらの間に人工的な半屋外の空間を挟み込むことで、周囲の自然に対する緩衝地帯としました。ここには季節によって各種の苗のパレットが並び、農機具や軽トラックが出入りし、主暖房である薪ストーブの薪が積まれ、玉ねぎが吊るされることになるでしょう。
ボリュームの分割にあたっては「ドマ」「イマ・ザシキ(ハレ)」「ダイドコ・ネマ(ケ)」といった伝統的な民家の構成を参照し、再構成しています。各ボリュームには生活上の使い勝手や必要となる天井高、雨水排水の方向、周囲の山並みなどを勘案してそれぞれに屋根を架け、ささやかではありますが複数の屋根が重なりあいながら里山に寄り添うルーフスケープを形成し、「ナヤ」「オモヤ」「クラ」といった異なるボリュームの集まりからなる伝統的な民家のシルエットを想起させる全体構成としました。

 

■現代の民家における「かまど」と「大黒柱」
内部では、キッチンを現代版の「かまど」と読み替え、基礎と一体で立ち上げたコンクリートで作っているほか、主室の中央に立つ「大黒柱」が見る角度によっては「床柱」のようにも見えるように周囲を設え、構造としての役割だけでなく象徴的にも機能するように扱っています。また通常のプロセスとは逆に、既存の竹木をどこまで伐るかを建物の計画と並行して検討していくという引き算の外構計画を行っていますが、ひと冬をかけて毎日現場に通い、実際にこつこつと「引き算(=竹の伐採)」をしてくださった建主の住まいづくりに対する情熱には頭が下るばかりです。

 

■ランドスケープとルーフスケープのあいだ
敷地という小さな範囲に留まらず、周囲に広がる田んぼや里山まで含めた大きなランドスケープと、それらを受け止め生活の場を規定するルーフスケープ。その場所に相応しい両者の関係を見つけることができれば、自然と風景に馴染み、日々の暮らしの雑多なあれこれや将来にわたる住まい方の変化を受け止めうる、大らかな住まいをつくることができるのではないかと考えています。

作品データ

所在地: 兵庫県

土地面積: 989.93㎡

延床面積: 123.58㎡

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