プロの住宅レシピ 展示と日常の境界──作品を抱くギャラリーの住まい

木名瀬佳世建築研究室
木名瀬 佳世

ダイニングにはシャンデリアとアンティーク家具を配し、画廊としての佇まいを色濃く残す。展示と生活が同じ空間に共存する、この家らしい場面。

空間の奥行きを生かし視線が連続するよう計画された室内。壁は単なる仕切りではなく、作品を受け止めるための背景として機能している。

白く塗装した屋久島杉の床と構造梁をあらわにした寝室。作品の中に身を委ねるように眠るというイメージから生まれた静かな私室。

L字に切り取られた出窓から公園と海を望む眺め。山手という立地の中で得難い景色を日常の一部として取り込んでいる。

横浜・山手の異国文化と住宅地の静けさが重なり合うこのエリアは、歴史的建築や緑の残る公園が点在し、都市にありながら時間の流れがどこか緩やかです。

この住まいは、展示や記憶の濃度から一歩距離を取り、静けさの中で自分自身に立ち戻れる空間が丁寧に用意されています。

改修にあたって最初に向き合ったのは構造的な制約でした。もともとワンルームとして改修された経緯のあるこの建物は、耐震面での不安を抱えており、床や壁、天井の扱いには慎重な判断が求められました。

天井高を確保するため、床レベルを下げるという選択も、そうした制約の中から導き出されたもの。結果として生まれた空間には数字以上の伸びやかさが感じられます。

寝室もまたこの住まいを象徴する場所。当初はベッドを置く予定ではなかったそうですが、検討を重ねる中で「作品の中に眠るような空間」というイメージが立ち上がりました。

構造梁をあらわにした天井と、白い床、最低限の家具構成。視線を受け止める壁と、外へと抜ける窓が、意識を静かに切り替えてくれます。

屋久島杉を白く塗装し、1階とはまったく異なる表情を与えています。作品を主役に据えるため、素材の存在感をあえて抑え、光が柔らかく回る背景として整えられました。ここでは「住む」ことよりも「感じる」ことが優先され、空間そのものが一枚のキャンバスのように佇んでします。

またL字に切り取られた出窓からは、公園の緑とその先に海を望む景色が広がります。山手という立地の中で得難いこの眺めは、作品や空間と同じく、住まいの一部として日常に溶け込んでいます。

外の世界と距離を取りながら完全には切り離さない。その曖昧な境界が、この住まいに独特の落ち着きをもたらしています。

展示のための空間とひとりの時間を受け止める空間。記憶を宿す場と、余白としての場。それらを明確に分けるのではなく、構造と光の扱いによって静かに調整する──意匠を語りすぎることなく、時間の質そのものを整えることで生まれる上質な住まいです。

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