プロの住宅レシピ 最大限を設計する──敷地条件を暮らしの質へと変えるという選択
この住宅の設計を貫いているのは「敷地を使い切る」という明確な計画意識です。それは法規や敷地条件によって規定された限界を、どこまで豊かな居住体験へと転換できるかという問いでもあります。
今回の住まいづくりでは、使い勝手を奥様主導で計画する中で、設計の主軸を担ったのはご主人の要望だったという点も特徴的です。好きなものに囲まれて暮らしたいという価値観が、空間構成や素材選びの判断に一貫して反映されています。
設計では単純に外部に中庭やバルコニーを設けるのではなく、それらを内部化する発想が選ばれていています。建物中央に設けた用途を限定しないホールや、吹抜と段差によって連続する空間がその特徴です。
計画にあたっては、風致地区に指定された地域特有の制限も大きな要素でした。道路から一定距離を確保する必要がある中で、バルコニーの扱いについては役所との協議を重ね、壁を天井高近くまで立ち上げることで、条件をクリアしながら内部と連続する半屋外的な空間を成立させています。
採光計画もまた、敷地条件に応答する形で組み立てられています。南側の強い直射日光はスリット状のハイサイドライトに抑え、東側からの反射光を室内へと導くことで、柔らかな明るさを確保。プライバシーを守りながら、十分な採光を得るための断面的な操作です。
段差や吹抜によって生まれた高さの違いは、明確な用途分けをするためではなく、生活のシーンに応じて居場所を選べる余白として機能しています。都市住宅において求められる距離感が、空間構成として丁寧に織り込まれています。
素材やディテールも同様に、明確なルールのもとで選ばれています。タイル床を基本とし、フローリングは必要な場所にのみ使用。設備や配線は極力視界から消し、操作感だけを残します。
敷地条件を読み解き、法規を受け止め、内部へと引き込みます。この住宅は制約を住まいの密度へと変換することで成立している端正な住まいです。
photo:吉村昌也